sai包囲網・中一の夏編 10


(10)
「碁会所に寄っていかなくていいのか?」
 囲碁サロンの階を素通りしたボクに、進藤が不安そうに声をかける。
「その必要はないよ。鍵はボクが持ってるし、出入りも自由だ」
 むしろ、市河さんや碁会所のお客さんに逢わないように、わざわざ裏
の通用口に回ったくらいだ。
「さぁ、どうぞ」
 使っていないとは言っても、週に一度は掃除をして貰ってるお陰で、
中は清潔で快適だ。先に進藤を奥に入らせ、いつもそこに置いてあるは
ずのものを棚から取り出し、パンツのポケットにしまった。これが必要
になるかどうかは、彼の出方次第だけれど。
 座るように勧めた応接セット、進藤は一人がけの椅子ではなくソファ
の方に、なぜか大きく右側を開けて、腰を下ろした。
「先に飲む?」
 下の自動販売機で買ったスポーツドリンクを、彼の前に置いてやる。
「あっ、サンキュ」
 冷てぇと言いながら三分の一まで飲んだ後、おまえは信じられないか
も知れないけれどと、進藤が切り出した話は、確かにすぐには信じられ
ないものだった。
 平安時代、帝の囲碁指南役であった藤原佐為という人物が、その死後
も神の一手を求める余りに成仏できずに進藤に取り憑いている。しかも、
進藤の前はあの本因坊秀策に代わって碁を打っていた・・・。
 もし、ボクがまったく碁を知らなかったのなら、頭から信じなかった。
ただの進藤の妄想か、それとも虚言癖があるのかと疑っただろう。
 だけど、ボクは初めて相対したときの、進藤の打ち筋を知っている。
過去の産物とは言わないまでも、今ではあまり使われることのない古い
定石、それを補って余りあるほどの棋力。そして、奇しくも、あのアマ
の囲碁大会の会場で、誰かがsaiを評して言った言葉・・・。
 本因坊秀策が現代の定石を学んだような・・・。



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