sai包囲網 10
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「関係がない?」
「そうだよ。塔矢はいつもそうやって、オレの先回りをして勝手に決め
つけたり、追いかけ回したりしてるけどな。そんなことする権利なんて、
塔矢にはないだろ!」
自分はsaiではないと何度言っても信じてくれないアキラに本気で
腹が立って来る。確かに自分は佐為の代わりにネットで碁を打ったが、
イコールsaiではない。嘘はついていない。勝手にそう思い込んでる
アキラが悪いんだ。
「調べたかったら勝手にしろよ。オレ、帰るからな!」
「待て、進藤!」
「離せよ!」
引き止めようと腕を掴むアキラと、それを振り払って部屋から出て行
こうとするヒカル。一進一退の攻防は、それでも僅かに体格と力に優る
アキラに軍配が上がった。
細い両肩を引き寄せられ、そのまま力任せに畳の上へと押し倒される。
どすんと鈍い音。ヒカルは後頭部と背中に痛みを感じて、低く呻いた。
今まで散々「ふざけるな!」と怒鳴られることはあっても、あの塔矢
アキラが腕力に訴えて来るなんて思わなかった。
「痛ぇなぁ、もう」
まだずきずきと痛む頭に眉を寄せながら振り仰いだアキラの表情に、
ヒカルはぎょっとした。乱れた黒髪の間から覗くアキラの眼が、まるで
狩りをしている肉食動物のように鋭くこちらを見据えている。ヒカルは
自分がその爪にかかった小動物に思えて、知らず知らずのうちに身震い
をしていた。
「怖い?進藤」
「こ、怖かねぇよ!」
「じゃあ、何で震えてるの?」
「これは、た、ただの武者震いだって」
精一杯の虚勢を張って身を捩ろうとするが、うまく肩に体重を乗せら
れて、まったく身体が動かない。
「お前、いったい、どういうつもりなんだよ?」
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