誕生歌はジャイアン・リサイタルで(仮題) 10
(10)
船はゆっくりと川を進んで行く。
「ヒカル、ここは三途の川なんです…だからあれほど来るなと言ったのに」
「そ、そうだったのか…ごめん、佐為の声が聞こえないからオレ…佐為に会いに行こうと」
「ムチャですよ、全く…でも大丈夫、ヒカルはまだ渡りきってませんから、戻れますよ」
「良かった〜誕生日が命日になるなんて、シャレになんねーもんな」
「そう言えば、今日はヒカルの誕生日だったんですね…」
「そうだよ!なんだよー忘れてたのかよ?ひでー佐為の薄情者っ!」
「こっちだと時間の感覚がなくなってしまって…でも、おめでとうございます、ヒカル」
「チェッ、許してやるか…ありがとな、佐為」
船は次第に、岸へと近付いて行った。
「さあヒカル、この先のこのトンネルを抜ければ、現世へ帰れますよ」
黄色い花で出来た道の先に、暗いトンネルが見える。ヒカルは佐為の装束の袖を掴んだ。
「…佐為は?」
「私は、一緒には行けません…ヒカル一人で行かなければ」
「…」
ゆっくりと佐為の袖を離すと、そのまま俯いてしまう。佐為はヒカルの頭に手を置くと、優しく諭した。
「ヒカル、私とはいつでも会える事を、もう知ってるはずでしょう?」
「…うん」
「さあ、行きなさい…でも、決して振り返ってはいけません。真っ直ぐ前を見て」
ヒカルは駆け出した、佐為にもうこれ以上涙を見せたくなかったから。
走りながら叫ぶ、大きな声で佐為に別れを告げた。
「佐為、オレ、神の一手を極めるから!それまでここには来ないから!待っててくれよな、佐為ー!」
佐為のあたたかな声が後から追いかけるように、風に乗って聞こえる。
「楽しみにしてますよ、ヒカル」
ペットボトルを持った和谷と消防士伊角のことは、ヒカルの頭からすっかり消えていた。
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