落日 10


(10)
重なり合った体の熱が上がり、息が荒くなる。
細く華奢な身体はそれでもその中に若い熱と靭さを持っており、同じく若い性をぶつけてもそのまま
受け止め、受け入れてくれる。引き抜き、突き上げる力に彼は強くしがみ付きながらも、悦びの声を
あげる。その声に、夢中になった。動きはしだいに激しくなり、彼の名前を呼びながら奥深くまで突き
入れると、二人同時に到達した。
快楽の余韻に痙攣する彼の身体をそっと抱きしめると、急に腕の中の存在がとても愛おしいものに思
えてくる。最初は彼の儚げな様子に心を奪われ、衝動的に抱きしめてしまって火がついたのだと思って
いたが、こうしていると、実はもうずっと、彼をこうしたかったのだという事に気付く。

小さな声で彼の名を呼ぶと、震える手が背に回され、弱々しい力で抱きしめられた。胸が震えそうになり
ながら彼の目蓋にくちづけを落とそうとした時、可憐な唇から弱い声が漏れて、はっと息を飲んでしまった。
半ば気付いていた事を、こんなふうにして思い知らされるのか。
こうして抱いているのは自分なのに、それでも「彼」の名を呼ぶのか。
それとも、彼は今自分を抱いているのが誰なのか、わかっていないのではないか?「彼」に抱かれている
つもりなのではないか?だから、あんなに、こちらが途惑うほどに積極的に身体を開いたのか?
気付かされてしまった事実に、呆然とする。
それでも。
それでも、と頭を振り、絶望を衝撃を追いやろうとする。そんな事はいい。わかっていた事じゃないか。
そう、今は、まだ「彼」を思っているのかもしれないけれど、それでも今抱いているのは自分なのだから、
時間が経てばいつか「彼」を失った傷も癒える。そうすればまた、以前のような彼に戻ってくれるだろう。
早く元気になって欲しい。
元のような明るい笑顔を取り戻して欲しい。
時が経てば忘れる。忘れてくれる。そうしたら今度こそ本当に、彼は自分のものになる。
いや、今だって、彼は自分のものだ。だって今はこうやって自分の腕の中にいる。抱きしめてやれば柔ら
かく抱き返してきてくれる。
いつか時が来たら、夏の日差しを取り戻して欲しい。そうして、今度こそ、その眩しい程の笑顔を自分に向け
て欲しい。
そう思った。



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