りぼん 10


(10)
「おまえオレが食ってるところ見るの嫌い?」
そう言うと塔矢は驚いた顔して、まさか、と言った。
「ボクはきみが食べているところが好きだ。あと眠っているところも」
少し意味ありげに塔矢が言う。ニコニコしてるのが何だかブキミだ。
「でも一番好きなのは、碁を打っているところだ」
そりゃどうも、とオレは心のなかでつぶやいた。
こういう浮ついたセリフはだいぶ慣れた。いちいち恥ずかしがってたらキリがないもんな。
……そう思うのに、心臓がドキドキしてる。
いや、これはお酒を飲んだからだ。そうに決まってる!
「そろそろデザートにしようか」
一瞬オレは緊張してしまった。別の意味で聞こえたんだ。でも塔矢は台所のほうに消えた。
そういえばオレ、何にもしてないよな。ぜーんぶ、塔矢まかせだ。
「進藤、そこのお皿をどけてくれる?」
塔矢はいろんな種類のフルーツと、花のかたちをした飴細工がのった大きなケーキを持って
もどってきた。
おいしそうだけど、二人で全部は食べきれないな。多くても二きれくらいがせいぜいだ。
塔矢がていねいに切り分けていく。
「ロウソクとか立てないのか? 歌くらいならうたってやってもいいぜ」
「蝋燭はいらないけど、歌は聴きたいな」
「マリリン・モンロー風にうたってやろうか?」
塔矢はきょとんと首をかしげた。ここでたいていのヤツは笑うんだけどなあ。
「それってどういうのだ? うたってよ、進藤」
「え? えーと……」
なんかマジメな顔して言ってる塔矢を見てたら急に恥ずかしくなってきた。
「ゴメン、今のは冗談だ。食おうぜ、ケーキ」
「歌は?」
「それもなし。オレはロウソクがなくちゃ歌えないんだ」
自分でもヘンないいわけだって思う。だけどやっぱり塔矢はまじめに受け取って、うちには
誕生日用のロウソクはないんだって、残念そうに言った。



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