失楽園 10


(10)
「――進藤」
 コツコツとスリガラスのドアをノックされ、ヒカルはシャワーコックを締めた。ゆらゆらと緒方の
影が見える。白と青が鮮やかだった。
「すまんが、うっかりしていて下着とズボンも洗濯機に入れてしまった。とりあえず乾燥させるが、
それまでの間――」
 緒方の影がユラユラと動く。ヒカルは苦笑してドアに背を向けた。
「いいよ。仕方ないや」
「オレのを履くか? 少し刺激的かもしれんが」
「バ………ッ!」
「ハハハ、冗談だ」
 笑いながら、緒方の影が消える。ヒカルは頭を2・3度振って水滴を飛ばし、タオルを腰に巻いて
バスルームを出た。ドアの左横にある真っ白な棚にタオルと緒方のバスローブが几帳面に畳んで置いて
あるのを発見し、ヒカルは一度も着たことがなかったバスローブを纏った。
「手の長さが……足りないや」
 明らかに緒方のそれはヒカルの華奢な体躯には大きく、袖口からは爪の先も見えない。くるりと振り
向いて、壁に備え付けてある全身が映るほど大きな鏡に映してみると、肩は落ち、丈も中途半端で
なんとも不格好だ。
「すげー似合わね〜!」
 ヒカルは鏡の中の自分を指差して爆笑し、クスクス笑いながら脱衣所を後にした。



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