スノウ・ライト 10


(10)
じり(略)
ただいまより第二部中編を上演いたします。

由緒あるトウヤ国はどの国からも一目おかれています。
特に次期国王になるでしょう王子は、みなの憧れの的でした。
そんな王子の部屋から、ものすごい破壊音が聞こえてきました。
「ア、アキラ王子……」
壁の粉がぱらぱらと床に降ってきます。王子の手はぶるぶるとふるえていました。
「まだヒカル姫の行方がわからないだと!? ふざけるなっ」
アキラ王子、実は隣国のヒカル姫に片想い中です。
「ボクがヒカル姫に懸想してからもうずいぶん経った。もう見ているだけでは嫌なんだ」
ストーカーの気のある王子は、ことあるごとにヒカル姫を追いかけまわしていました。
ネットで調べたり、手下のユンやアマノを密偵につかったり、国の中枢機関であるキイン
を通じて、ヒカル姫に接触のあった者に近付いたりと、その執着ぶりはすさまじいものが
あります。王子はヒカル姫のこととなると周りが見えなくなるのです。
「あれは、まだボクが12歳のときだった……」
アキラ王子、回想モードに入りました。
「ボクは姫と一局うった。勝つ自信があった。ボクは神の一突きを極めようという志に
 生きていたのだから……なのにボクの攻めは簡単にかわされ、あろうことかリードされ、
 そしてはるかな高みから見下ろすようなテクを前に、ボクはあっけなく敗れたんだ……」
憂いに満ちたその美しい表情に、その場にいた名も無き下僕たちは溜め息をつきました。
「ボクが油断したからだと思った……だからもう一度挑戦したんだ。なのにボクは、姫の
テクに一度目よりも早く音をあげてしまった」
王子は一枚の棋譜を手に取りました。ヒカル姫との対局のものです。
「何度これでボクは抜いたことか。ボクはまたヒカル姫としたいと思った。なのに、姫は
ボクよりもツツイとか言う眼鏡男を選んだんだ。こんなひどい侮辱を受けたのは初めて
だった! それでもボクはあきらめずに追いかけた。だが、次にしたときのヒカル姫は
別人のようになってしまっていた……」
それでもヒカル姫とのエクスタシーが忘れられず、気付いたら王子は四六時中ヒカル姫の
ことばかりを考えるようになったのでした。



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