月明星稀 10
(10)
「君が望まないのなら君には指一本触れないと誓おう。」
しかしそのアキラの宣言は逆に自分の奥の欲望を見透かされているようで、ヒカルは益々顔を赤くさせた。
「僕は君じゃないし、佐為殿でもないから、彼がどんな風に君を愛したのか、君がどんな風に彼を愛して
いたのか、その想いと僕の想いと、どこが同じでどこが違うのかはわからない。
ただ、君が好きだ。」
「ずっと、君が好きだった。」
白い指がヒカルに向かって伸ばされて、ヒカルは思わずぎゅっと目を瞑った。
けれど頬に触れるひんやりとした指先も、唇に触れる暖かな唇も、いつまでたっても降りてはこないので、
こわごわと目を開けた。
「君が望まなければ触れないと、言っただろう?」
「べっ、別に、俺は…っ」
「それはどっちの意味?僕に触れて欲しいって事?それとも触れては欲しくないという事?」
答えることが出来ずに真っ赤な顔でアキラを睨みつけるヒカルに、アキラは愛おしそうに目を細める。
「言い方が悪いね。ごめん。もう一度聞こう。君に、触れてもいい?それとも、いや?」
「いっ、いやじゃ、ない…」
必死に答えると彼の腕がすっと伸びて抱き寄せられる。
「ヒカル…」
耳元で囁くように名を呼ばれると、くらくらと眩暈がするような気がした。
「…一度でいいから君の気持ちを聞かせて。」
「ほんの少しでも、僕を好き…?」
わからない。わからないんだ。嫌いじゃない。嫌いなわけじゃない。
好きだ。好きだと思う。けれどそれを言っていい言葉なのかどうかわからない。
混乱してしまって、「好きだ」と言う言葉の意味がわからない。
「賀茂……俺…、俺、」
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