金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 10 - 11
(10)
「ねーねーこれ伊角さんの〜?」
「!?ち、違う!門脇さんのだ!」
力一杯否定した。
「ふーん…そーなんだ…」
そうすると、ヒカルは急に興味をなくしたように伊角から離れると、今度は門脇の方へにじり寄った。
「ねーねー門脇さんって、ヘンタイ?」
なんと言うことを言うのだ!この酔っぱらい!伊角がヒカルの口を塞ごうとしたが、門脇は
笑ってヒカルの両頬を軽くつねった。
「イテ!いひゃいよ…かろわきしゃん…」
「これは宴会グッズだよ。前の会社の同僚に貸してたのを、今日、返してもらったの。」
門脇が手を離すと、ヒカルは頬をさすりながら、鞄の中を覗き込んだ。
「ふ〜ん…こっちは何?」
「これか?これはバニーガールだな…こっちはチャイナドレス…」
興味津々なヒカルの前に、門脇は鞄の中身を広げた。ちょんまげカツラや町娘のカツラ、
宴会部長と書かれたたすきなども出てきた。
「サイズ大きいね…」
「こういう物は男に着せて笑いをとるもんだからな…でも、このセーラー服は女物だな…」
「これは女の人が着るの?」
「シャレでな。」
「ふーん」と、ヒカルは暫くそれを見ていたが、おもむろにセーラー服を手に取ると
自分の胸に当てて、
「ねーねーこれ、似合う?」
と、トロンと目元を染めた笑顔のままで訊ねた。
(11)
「はぁ?」
門脇は絶句した。似合うかと否かと訊かれれば、「似合う!!」以外の答えはないだろう。
しかし………
門脇がどう答えようかと逡巡していると、横から割り込む奴がいた。
「お〜似合う!似合う!」
ヒカルと同じくらい顔を赤く染めた和谷がケラケラ笑って、大きく手を叩いた。
「んじゃあ〜オレはコレ〜」
和谷はバニーガールの耳を頭にかぶって、ヒカルに見せた。
「和谷〜かわいい〜」
二人で勝手に盛り上がるヒカルと和谷。 それを呆れて見守る三人、一人静かにだが着実に
空き缶を増やしていく越智。
「止めなくていいのかな?」
「酔っているヤツに何言ってもムダだと思う…」
「害はないみたいだからいいんじゃないかな…」
その時、背後で派手な音を立てて、何かが倒れた。
空き缶に埋もれて、越智が潰れていた。
「あ!おい…越智大丈夫か?」
突然倒れた越智に慌てて伊角が駆け寄った。
「急性アルコール中毒かな?」
「違うだろ…とりあえず、濡れタオル持ってくる。」
ヒカル達のことより、越智の介抱の方が先決である。三人はあわただしく、動き始めた。
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