失着点・龍界編 10 - 11
(10)
…自分も犯される。三谷のように…
ヒカルの背中に氷のように冷たいものが走った。恐怖感で足が震えた。
それでも必死に目の前の男の目を睨み続けた。
「そんなに怯えるな。お前にはこれ以上何もしないよ。…そのかわり…」
サングラスの男はヒカルの胸から手を離して顎を捕らえ、ヒカルの唇を吸う。
吸いながらも下では激しくヒカルを抜き続ける。後ろの男も指の数を増やす。
唇を塞がれた咽の奥で、ヒカルは到達を知らせるうめき声を漏らす。
男の手の中に温かい物を出し、カクンカクンと膝を震わすヒカルを無視して
刺激はなおも与えられ続ける。男は手を動かしながらわずかに唇を離し
ヒカルの熱い吐息を嗅ぎながら言った。
「週末、土曜の夜にあの場所にもう一度来てもらうよ。わかったな…」
ベッドの上で三谷は吊り下げられたまま気を失っていた。
ヒカルは、顎を掴まれたまま顔を小さく縦に振るしかなかった。
ワゴン車で最初に乗せられた場所まで戻され、ようやく解放された。携帯は
奪われたままだった。既に深夜で辺りに人通りはない。
「またな、“子猫”ちゃん。必ずそのお友達を連れてこいよ。」
男達は卑下た笑いを残して走り去って行った。ふらつく状態の三谷の肩を
抱えてヒカルが支える。
「…悪かったな…、…進藤…。」
(11)
殆ど聞き取れないくらいの小さな声で三谷が謝罪する。だが気持ちの半分には
「よけいな事をしようとするから」という非難が込められていた。
「…警察に行こう…、三谷…。」
そのヒカルの言葉に三谷が驚いたように目を向けて来た。
「…オレ達は…暴行されたんだ…警察に行こう…」
三谷はヒカルから離れた。だがすぐバランスを失って背後の閉じたシャッター
にふらふらともたれかかった。軋んだ軽い鉄の音が小さく夜の街に響く。
ヒカルが手を出そうとするが三谷はそれを払い除ける。
「…行くんならおまえ一人で行けよ。オレはご免だね。」
そして三谷は、ヒカルを嘲るように笑みを浮かべた。
「お前、棋士仲間と逃げ出したんだってな。急にプロの仕事が嫌になって」
ヒカルはハッとなった。
「ホント、結構いい加減な奴だよな、お前って。」
「…三谷…」
何も言い返す事は出来ない。そう受け取られても仕方ないのだ。
三谷は自分の体を必死に支えるようにして、そんなヒカルの前から無理にも
早足で足を引きずりながら立ち去ろうとした。
ヒカルは少し迷い、やはり決意してそんな三谷を追った。
「その体じゃ、無理だよ、三谷…」
信号機のない道路を足早に横切った三谷に続いて渡ろうとした。
次の瞬間、直進して来た車のヘッドライトがヒカルの体を包んだ。
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