初めての体験+Aside 10 - 11
(10)
「おおきに…進藤…」
社はヒカルに礼を言った。そのせいで、アキラに虐められたことは伏せておこう。格好が
悪い。
「ビックリしただろ?」
ヒカルの問いかけに、社は驚いた。さっきことを言われたのかと思った。
「地図書いたの塔矢なんだあ。心配性でさ。大丈夫だって言ってんのに。」
そう言いながら、ヒカルはすごく嬉しそうだった。
なんやそっちか……ホッとした。ん?…心配性?ふと疑問が浮かんだ。
「……進藤…もしかしてスタンガン持っとるか?」
ヒカルは一瞬キョトンとしたが、すぐに頷いた。
「何で知ってるの?」
「ほら」と、ヒカルが見せてくれたものは社の想像とは違った。可愛いマスコット型の
一見普通のキーホルダーだ。
「コレ、塔矢がくれたんだ。オレ、電車でよく女の子と間違われて触られるから…」
「結構役に立っているよ。ちょっとあたるとビリビリってして、みんなビックリするから。」
アレはヒカルに渡すためのものだったのだ。アキラは社で実験したのだ。そして……
結果、ヒカルに持たせるのは危ないとふんだのだ。
『塔矢…結構イイヤツ…』
自分のされたことも忘れて、社はそう思った。やっていることはメチャクチャだが、ヒカルの
ためという一点に置いては好意がもてる。ホントに…そこだけしか好きになれない。
―――――向こうはオレのことは、全部気にいらんやろうけどな
(11)
「社?疲れたのか?お茶煎れてこようか?」
無言になった社をヒカルが気遣った。彼が部屋を出ていこうとしたとき、アキラが入ってきた。
「お茶ならボクが煎れようか?お母さんがいないから何のもてなしも出来ないけど…
お茶ぐらいなら煎れられるよ。」
……“お”茶、“お”母さん……何故だろう?ヒカルと同じ言葉使いなのに…何処か薄ら
寒く感じるのは……。
毒でも盛られるんとちゃうやろか?
社がそんなことを考えている間にも、アキラはテキパキと用意をしていく。
「さあ、どうぞ。」
「サンキュ。」
ヒカルは何の躊躇いもなく、湯飲みに口を付ける。社はどうしようかと、一瞬迷った。
「どうしたんだい?心配しなくても毒なんか入ってないよ?」
アキラが揶揄した。
「やだなあ、塔矢。冗談ばっかし。」
ヒカルが快活な笑い声を立てた。実に和やかな雰囲気だ。
アキラの小馬鹿にしたような視線と、ヒカルの無邪気な笑顔が、社を追いつめる。
―――――オレも男や。覚悟を決めるで。初日からビビってどうすんねん!
社は一気に、お茶を呷った。………………熱かった。
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