Linkage 101 - 102
(101)
「……わざわざアキラ君が気にする事じゃないだろ。それより早く服を着てくれ。オレが正気を保っている間にな」
膝の上に置いた下着を取り上げると、アキラの目の前でこれみよがしに振ってみせる。
アキラはすかさずそれを取り上げると、ソファから立ち上がり、そそくさと服を身につけ始めた。
(オレは……トイレでも行くか……)
緒方は部屋を出るため立ち上がろうとした瞬間、アキラの鋭い声が飛ぶ。
「待って!」
ハイネックニットの裾を慌ただしくズボンの中に押し込み、ベルトを締めると、アキラはきつい眼差しで
中腰の緒方を睨んだ。
「そこに座っていてください」
毅然とした口調でソファを指差すアキラの指示に従い、緒方は不承不承腰を下ろす。
「……何か用か?」
アキラの意図するところが全くわからない緒方は、自分を凝視するアキラを困惑しながら見上げた。
(最後までしなかったにしろ、あれだけの辱めを受けたんだ。怒って当然だな。まあ、煮るなり焼くなり
アキラ君のお望みのままにしてくれ。むしろそれこそ望むところだ……)
投げ遣りにフンと鼻を鳴らして自嘲する緒方に、アキラは意外そうな表情を浮かべる。
「『フン』って……どうかしたんですか?」
小首を傾げつつ、緒方の横に腰掛ける。
「それはこっちのセリフだ。一体何をするつもりなんだ?」
妙にピリピリした様子でそう尋ねる緒方に、アキラはクスッと笑った。
その笑顔に、普段のアキラが見せる小学生らしいあどけなさはない。
これまでに見たこともない毒気を秘めた妖艶な表情に、緒方は思わず息を呑んだ。
「……仕返し……かな?」
言い終わらないうちに、緒方のベルトに手を掛けたアキラは、苦もなく留め金を外してベルトを引き抜くと、
スラックスのファスナーを勢いよく下ろす。
「なッ…何を考えてるんだッ!?」
スラックスの前を開け、中に手を差し入れようとするアキラの手首を緒方は慌てて掴んだ。
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「『仕返し』って、まさかアキラ君……?」
「……ボクは男なのに、あんなことされたから……。悔しくて……」
先程とは打って変わり、子供っぽくふてくされて唇を噛み締めるアキラに、緒方は内心安堵する。
「……悔しいと、こういう仕返しをしたくなるのか?オレがアキラ君にしたことを今度はアキラ君が
オレに対してすれば、それが仕返しになると……?」
アキラは決まり悪そうに頷いた。
「……他に方法が思いつかないし……」
掴んでいたアキラの手首を離してやると、緒方はスラックスのファスナーを上げ、肘でアキラの脇腹を
軽く小突いた。
「男だろ?オレの顔でも身体でも殴ってみろよ。暴力が嫌なら罵声を浴びせるとか……。幾らでも方法はあるぞ」
「……緒方さんにそんなこと…ボクには……」
項垂れるアキラを横目に緒方は込み上げてくる笑いを必死で堪える。
(暴力と暴言は無理でも、こういう同害復讐なら問題ないわけか。『目には目を』も結構だが……アキラ君は
オレが止めなかったら、どこまでするつもりだったんだ?)
真っ直ぐな性格だけに、もし自分がアキラを止めず、逆に挑発でもしようものなら……。
数分前に見せたアキラの妖艶な表情を思い浮かべ、緒方は思わず真顔で考え込んだ。
(オレが勝手に惑わされたのか?それとも、アキラ君が故意にオレを挑発……?まあ……アキラ君がオレを
好きなようにするには10年早いがな……)
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