裏階段 アキラ編 101 - 102
(101)
アキラには自信があったのだろう。
そうする事で自分が父親に成り代われると。
オレもそう感じていた。それを期待していた。
自分の中で大きくなり過ぎていた先生の存在が良い意味でいつしか薄れ、
過去の悪夢から完全に解放される時はそう遠くないと考えられるようになった。
そう思うと自分の横で寝息を立てるアキラとそうして過ごす時間が何より安らげる
価値あるものに見えた。
それがいつからか重荷に感じるようになってしまった。
身勝手なのは承知している。
先生を自分から断ち切らせた別の存在に出会ってしまったからだ。
だがその事に気が付いたのが随分後になってからだった。
それが傷口を深くした。
以前も今でもアキラは行為の後は暫くオレの体の上に横たわり、
余韻を味わうかのように胸に片耳を当てて心音を確かめたがる。
「父の代わりになれる、そうボクは思っていた…」
ポツリとそう呟いたアキラの言葉にこちらが僅かに動揺する。
「緒方さんがどうしてもダメだと言うのなら、今日が最後になってもいい。
だけど…」
アキラが体を起こし、オレの目を見つめる。
(102)
これだけは一歩も引かないという決意の眼差しを向けられる。
「もうボクを抱かないと言うのなら、それでもいい。だけど…」
その先を言わせたくなくて指をアキラの唇に当て、口に含ませる。
アキラはオレの指を吸う。
初めてあの家の彼の部屋で、布団に横たわった小さな生命だった彼の
唇に指が触れた時の感触が甦る。
同時にそれは彼の体内の感触にも似ている。
オレの指はもう何度もその箇所に深く入り込み、
痙攣し強く締めつけるその部分をアキラが泣き出すまで嬲り続けた事もあった。
その時と同じような動きでアキラの柔らかで温かく濡れた口内を撫でる。
もう二度と得ることのない感覚だろう。
ひとしきり指を吸うと
アキラはオレの手首を掴み口から離させた。
「進藤も…、ボクを抱かないのなら進藤も二度と抱かないで欲しい…!」
それは今までもう何度も言葉には出されなくてもアキラから訴えられて来た
願いだった。
(塔矢アキラ編:終わり)
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