Linkage 105 - 106
(105)
呆気にとられる緒方を真剣な面持ちで見つめながら、アキラはゆっくりと口を開いた。
「……それはわかってます。でも、ああなったっていうことは、ボクにも効き目がちゃんと出るって事でしょ?
量を間違えなければ、ボクも緒方さんみたいに寝付けるかなって……」
アキラには幼少時から接している以上、その性格は緒方も熟知している。
丁々発止の論議の末にくたびれ果てて折れるような愚を犯すより、早めに白旗を振っておいた方が賢明であることは
わかっていた。
「……だろうな」
早々に降参の意思表示をすると、緒方は腕組みをして考え込んだ。
(確かに昨日は量を間違えた。オレの半分じゃ少なすぎか。そうなると、昨日の1.5倍程度が妥当かもしれんな……)
アキラに薬を渡すということは、即ち緒方自身の薬の量を減らすことになる。
小野に次回分の薬を増量させるにしても、増量を怪しまれないだけの理由が必要だった。
緒方とすれば、自分を経由して他人が薬を服用している事実を小野に知られることだけは避けたかった。
違法な薬物であることを承知で取引している以上、小野とは面識のない第三者の存在を表沙汰にしても、
事を煩雑にするだけであることは容易に想像できる。
もし、その事態を嫌った小野から薬の供給を断られた上に、第三者と自分との関係まで詮索されることになれば、
それこそ緒方とアキラ双方にとって最悪のシナリオになってしまう。
(これまでの服用量では効果が出にくくなったとでも理由を付けて、不自然にならない程度に次回以降の量を
増やしてもらうとするか……。足りなくなるようならオレはまた酒で……)
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「……緒方さん、怒ってますか?」
腕組みしたまま思案に耽る緒方の様子に不安感を抱いたのか、アキラは緒方の顔を覗き込み、
おずおずと尋ねた。
緒方は慌ててアキラの方に顔を向ける。
「エッ…?ああ、別に怒ってなんかいないさ。あれこれ考え事をしていただけだ。取り敢えず
3、4日分だけなら今日渡しておこう。先生やお母さんにはくれぐれも見つからないようにしてくれよ。
アキラ君の部屋に冷蔵庫はないだろうが、なるべく冷暗所に保管して早めに使い切ってくれ」
緊張が一気に解け、アキラは和やかな表情で頷いた。
「薬の量は、結局どうすればいいんですか?」
「昨日の量の1.5倍で恐らく問題ないと思うんだが……。2倍だとオレと同量で、身体の小さい
アキラ君には多すぎるはずだ」
「昨日みたいなスプーンで測るんですよね?」
緒方はアキラの言葉に頷くと、「おいで」とアキラを手招きした。
台所の引き出しから計量用のスプーンを取り出すと、アキラの目の前にスプーンを差し出し、
目盛を指先で示す。
「この目盛が昨日の1.5倍のところだ。これなら間違えることもないだろうから、薬と一緒に
持って帰るといい。オレはもう目分量でわかるから、違うスプーンでも問題ないしな」
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