平安幻想異聞録-異聞- 105 - 110
(105)
ヒカルが全体重をかけて飲み込んでいるそれを、座間が思いきりゆさぶった。
「んんっんっ…んんっ、んんっ、んんっ、んんっ」
座間の律動に合わせて、ヒカルが喉の奥で、声をあげる。もうどうにもならない。
眉を八の字に寄せて、与えられる悦楽に耐えようとするヒカルの顔を、
座間は、その前髪を掴み、顔を自分の方に上げさせて楽しんだ。
ヒカルの方が、先に達して、座間の腹に精液を飛ばした。
体が弛緩する。だがその弛緩した体の体重がかかる先さえ、体深くまで
侵入した座間の陽物の上で。
ヒカルは、達した後も、赤黒く大きな座間のそれに深い部分を抉られて
喉の奥で喘ぎ声を上げた。
座間が、中に自らの淫液を吐き出した。
きつい刺激の余韻に小さく身を震わせているヒカルの体から座間が自分の
陽物を抜く。白く濃くねっとりとした精液が、ヒカルの秘門からこぼれて、
足をトロトロと伝い落ち、床を汚した。
「どうじゃな、わしの摩羅の味は。検非違使殿」
ヒカルは菅原と座間の立て続けの責めにその体力を攫われてしまったのか
ピクリとも動かない。
座間はだが、そのヒカルの瞳が、濡れた睫毛の下でいまいましげに自分を
睨みつけているのに気付いた。
「そうでなくてはな…。そうでなくては面白うないわ。顕忠、おまえもこの
愛らしい検非違使殿を可愛がってやれ。この強欲な体では、儂程度では
満足できんらしいからのう」
「御意に」
菅原はそういうと、磔にされた態勢のままくったりと、手首に体重をかけて
しまっているヒカルに近づき、自分の前をはだけた。ヒカルの目の前で、
座間よりは小振りだが、エラの張った堂々としたものが反り返って、
ヒカルの中に突き入れられるのを待っていた。
菅原はヒカルのわきの下に腕を入れて、しっかり立たせるように持ち上げると、
今度は左足の膝裏に手を回す。
何を、と疑問に思う間もなく、菅原はヒカルのその足を折り曲げて抱え上げてしまった。
右足一本だけで体を支える不安定な姿勢のままに、菅原のモノがヒカルの中に
突き入れられた。
猿轡をされたままの口で、苦悶の声を上げる。揺さぶられる。
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ただでさえ片足で立たされているのに、頂点に押し上げられたばかりの体には
力が入らず、またしても、座間の時と同じように、自分の体重をかけて
菅原の陽物を深く銜え込んでしまう。
それだけではなかった。
揺さぶられる衝撃にグラグラとバランスを崩しそうになるたびに、菅原のモノが
内壁を強くこすってヒカルを悶えさせるのだ。
その苦しさから逃れようと、ヒカルの上半身はいつのまにか、菅原の肩に
預けられていた。
その目の前のヒカルの首に菅原が吸い付いて、舌で嬲る。
「うっ…うっ……うんっ…ん」
突き上げられるたび、腹の底からもれる破裂音にも似た喘ぎ声。こんな状況でも
快楽を拾い続ける自分の体が情けないと、ヒカルは思った。
座間に見透かされてもいい。やはり少しでも他の事に考えを飛ばしていよう。
「何を考えているのかのう?」
菅原が、強弱を付けて突き上げてくる。3回は浅く、その次は思いきり深く、
そしてまた浅い部分で遊んだあと、次はこれ以上ないほど強く、内壁を抉りながら。
その動き方は、かえって深く侵入された時の感覚の刺激を増し、ヒカルは
3回に1回、4回に1回と深く突き上げられるたびに、猿轡を噛みしめる。
そうしなければ、驚くほど高い声をあげてしまいそうで、その感覚を、
必死で自分の中に押さえ込む。
体が徐々に快楽に流されていくのが自分でもわかった。
(だめだ。他のことを考えなくちゃ。これ以上、座間や菅原の思い通りになりたくない)
ヒカルは必死に仕事仲間のことや、家のことを思い浮かべる。
菅原の手が、陽物を銜え込んでいるヒカルの秘門に延びた。
そのあたりを汚す精液を指にまといつけると、菅原は、ヒカルの秘門から
成長しきっていない陰嚢の裏までの間をぬるりと撫で上げた。
「んーーーーっっっ!」
それだけの動きに、ヒカルの背を驚くほど強烈なしびれが駆け抜けた。
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もう一度、菅原の指がそこを愛撫する。
同時にヒカルの体の皮膚が粟立ち、崩れるように下半身から力が抜けて、
菅原の陽物を更に奥に飲み込む。他の事を考えるどころではなかった。
腰の筋肉をおののかせ、体を襲った強いしびれが通りすぎるのを
待っているヒカルの耳元にむけて、菅原がつぶやいた。
「ここは蟻の戸渡りと言ってのう。男ならここをいじられて感じぬ奴はおらぬわ」
そう言って、そこを集中的に指でいじり始めた。その間も腰を細かに揺すり、
ヒカルの甘肉を味わうことも忘れない。
「うっーーーーっっ!うっーーっっ!うっーーっっ!」
ヒカルが、菅原の指攻めから逃れようと暴れた。
暴れるたび、手首を支える縄が、ヒカルの手首の傷に食い込んで
するどい痛みを訴えた。
だが、その部分から送られてくる痛みだけが今、快楽に堕ちそうになるヒカルの
わずかな正気をつなぎ止めるものだった。
(なにか、なにか、……他の事を考えていよう……。だめだ、このままじゃ、…だめ)
だが、ヒカルの意思に反して、体はどうしょうもなく転がり落ちていく。
体が駄目なら、せめて。
せめて、心だけでもここに押しとどめておきたい。
何か、別のことを。
(佐為、今ごろ、どうしてる? オレのこと心配してくれてる?)
菅原が、ヒカルの体を自らの熱い槍で貫通させる勢いで、押し上げた。
「うんーーーーっっっ!!」
(賀茂のやつ、大丈夫かな。オレのことで責任感じてなきゃいいけど)
同じ勢いで、幾度も繰り返し繰り返し、ヒカルの内蔵をその鍛えられた鉄槍で
突き刺してくる。
「んんんっ、んんっ、うんーっっっ!」
ヒカルが、苦しげに頭を左右に打ち振った。
(佐為、オレは大丈夫だから…心配するなよ。大丈夫)
腹の奥深く、熱いドロドロした液体が巻き散らされるのを感じた。
菅原が終わったのとほとんど同時にヒカルも自分の熱を吐きだす。
体から力が抜けると同時に、また菅原の槍がまた奥深くに刺さったが、
奥歯に力を入れてなんとか声を出さずに耐える。
(……大丈夫)
――体なんて、どうにでも好きにすればいい。
だけど、自分の心はきっと別の場所にある。
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次の日、ともすればふらつく体をささえて、ヒカルは昨日と同じように、
座間とともに出仕した。
佐為には会わなかった。それがせめてもの救いだった。
座間は、帝の御用事とかで清涼殿に上った。さすがにその殿上の間までは、
いくら警護役と言えど、ヒカルごとき身分のものがおいそれと入り込める
ところではない。宜陽殿の一室で座間の用事が終わるまで控えることになった。
ヒカルはほっと息をつく。
たった2日の事なのに座間の目も菅原の目も届かない場所にいるのは
久しぶりな気がした。ここにいるのは、ヒカルと同じように、貴人の用が
終わるのを待つ従者や武人、位の低い貴族ばかりだ。
ヒカルは部屋の隅の柱の近くに座り、目を閉じる。そのままそっと柱に
もたれかかった。
眠かった。夕べの疲れがぜんぜん抜けていない。今夜もおそらく、座間と菅原が
自分の部屋を訪れるつもつもりだろうことは、ヒカルでもわかる。
それまでに、せめて少しでも体力を回復しておきたい。
この待ち時間は今のヒカルにとってはまたとない休息時間だ。
だが、うつらうつらとした浅い眠りから、いよいよ深い眠りに移ろうかと
言う時、何かが額にあたって、ヒカルを覚醒させた。
目を開けると、膝の上に扇が1本落ちていた。
誰かが、この扇を投げて、ヒカルの額に当てたのだ。
貴重な休憩時間を邪魔されたことに無性に腹がたって、ヒカルはそれを
投げた犯人を捜した。
犯人はすぐに見つかった。ヒカルの視線の先、まっすぐ前に立つ、
野性的な面ざしの男。
そこには加賀諸角が立っていたのだ。
「警護役が、みっともなく居眠りなんかしてんじゃねえよ」
加賀はそういいながら近づいてくると、かったるそうにヒカルの横に
腰を降ろした。
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「おまえ、どういうつもりだよ」
ヒカルは黙って加賀の言葉を聞いた。
「こないだまで、佐為佐為ってうるせぇくらいだったのに、今度は座間に
鞍替えか?」
加賀は不敵にも二人の殿上人を敬称なしで呼び捨ててみせる。
「そんなの、オレの勝手だろ」
一瞬、ヒカルはすべての事情を話してしまいたい衝動にも駆られたが、こんな
たちの悪い事件に加賀まで巻き込みたくなかった。
「返す」
代りに加賀が自分に投げつけた扇子を差し出す。
本当に、たちの悪い事件だ。
座間が佐為や行洋のことを逆恨みをしている事は知っていた。
それが、どういうつもりか自分を罠にかけたあげく、この体が欲しかっただなんて
気色の悪いことをいう。
馬鹿な冗談みたいな話だ。
上級貴族の典雅な楽しみってやつだろうか?
理解できない。わかるのは、そう、座間達にとって、自分の体を抱く事は、
佐為と自分の間にそれが起こった時のような、暖かい気持ちとは無縁だと
いう事だけだ。
座間達は、新しい遊具を与えられた子供のように、自分を玩んでいるだけなのだ。
そんな遊びに本気で付きあうだけバカバカしい。なら、こっちも適当にそれに
付きあってればいいんだ。
体だけ、好きにさせておいて、自分は自分のまま、しっかりと心を保っていれば
いい。
そうすれば、その間だけは、佐為や、自分の家族は無事なのだ。
少なくとも、座間がヒカルで遊ぶことに飽きるまでの間は、彼らの
無事は保証される。ヒカルの、大事な人たちの無事は。
そして、もし座間がヒカルに飽きる日が来たら――その時はその時だ。
そうなったときに考えよう。
それまでは、こんな座間達の気まぐれで起こったような事件に、これ以上誰も
巻き込みたくない
首をつっこんで欲しくない。
皆が皆、あいつらに振り回される必要はないんだ。
ヒカルは加賀の横から立ち上がって、場所を移そうとした。
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「待てよ」
腰をあげたヒカルの手を加賀がつかんで引き止める。
左手首。
痛みにヒカルが息をつめた。
その痛みに歪んだヒカルの顔を、加賀が見上げてのたまう。
「感心感心。怪我をしても左手ってな。おまえ、利き腕右手だったよな。利き腕は
武士の命だ。それだけは死ぬ気で守れって、オレが教えたもんな」
ヒカルは、その言葉に思い出した。
あの時、なぜ、自分が右腕ではなく、左腕に噛みついたのか。
無意識に、そちらを選んだのはなぜなのか。
『どんなにいい太刀を持ってたって、利き腕が使えなきゃ、武士なんてただの
役立たずなんだ。いくさ場でも、どこでも、それだけは死守しろよ』
そう、加賀に教えられていたからだ。
一方、ヒカルを逃がさないために、その怪我をしている方の手首をわざと掴んだ加賀は、
思いもよらぬことに動揺してた。
(おいおい、こいつの手首、こんなに細かったっけ?)
先に放った加賀の言葉に、何か気付いたように目を見開いているヒカルに、
思わず問い掛けていた。
「おい、お前、ちゃんと物食ってんだろうーな?」
「…食ってるさ!」
だが、その言葉の前のヒカルの一瞬の動揺を、加賀は見逃さなかった。
「よーーし、じゃあ、朝餉に何食ったか言ってみな!」
「う……」
ヒカルが言葉に詰まる。実は、今朝の朝餉は半分ほど口にしただけだった。
口にした分にしたって、疲れと寝不足で頭がぼんやりしていて、味も、何を
食べたかもよく覚えていないのだ。
そのヒカルの手首を加賀は掴んだまま、部屋の外に、庭に面した廊下へと
引っ張り出す。
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