初めての体験 106 - 111
(106)
あかん…!完璧失恋や〜グラスハートは粉々や…
わかっていたこととはいえ、本人にこうハッキリ断言されると落ち込む。それでも、表面上は、
「へぇ〜やっぱり、そうなんか。」
と、傷ついているそぶりも見せずにヒカルに笑いかけた。オレって見栄っ張りや…
ヒカルもそれに応えるようにニコニコと笑っていた。
「入って。」
ヒカルを部屋に招き入れた。散らかった荷物を一カ所に纏め、碁盤を取り出した。
「さ、打とか。」
振り返って、ヒカルに笑いかけた。と、同時に柔らかく首に腕が巻かれ、社の唇は、ヒカルの
それに塞がれた。ほんの一瞬触れただけのキスだった。その一瞬が、社の思考の全てを奪った。
固まったまま、動かなくなった社の頬に、ヒカルはチュッともう一度キスをした。
「〜〜〜〜〜〜な、な、な、何すんねん――――――!!」
狼狽えて、大声で怒鳴った。顔から火が出そうだ。耳まで紅くした姿で、怒鳴っても
てんでしまらない。社の首にしがみついたまま、ヒカルが言った。
「オレ、社としてみたい。」
その言葉の意味を把握するまで、たっぷり一分はかかった。自分は今、最高に間抜けな顔を
しているだろう。
「イヤ?」
首を少し傾けて、ヒカルが間近に顔を寄せる。
「イヤ?」って、イヤなわけがない。でも…。
「そ…そやけど、自分、塔矢とつきあっとるんとちゃうんか?」
「うん。オレ、塔矢が大好き。一番好き。」
ぬけぬけと言う。だけど、そう言って笑う顔がまた憎らしいくらい可愛かった。
「でもね…強いヤツにも興味があるんだ…だから、社のこと知りたい…」
再び、唇を塞がれた。今度のキスはさっきよりもずっと深く重ねられた。
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社は、ヒカルの華奢な腰に手を回し、もっと深くヒカルを味わおうとした。ヒカルの唇が
軽く開き、社を招いていた。舌を差し込むとすぐにヒカルがそれに応えた。ピチャピチャと
互いの舌を吸い合う音が社を興奮させた。ヒカルを抱く腕に力がこもった。
「ちょ…ちょっと待って…」
ヒカルが、身体を捩って、社の腕から逃れた。
「あの…あのさ、オレ、痛いのとか怖いのイヤなんだけど…」
痛そうに肩や腕をさすりながら、社を見る。
言葉の意味がよくわからなかった。ヒカルの顔を穴が開きそうなほど、ジッと見つめた。
「だからぁ、縛ったりとか叩いたりとか…」
顔を赤らめて、最後の方はごにょごにょとごまかすように、ヒカルは言った。
漸く理解して、社の頭にカーッと血が昇った。それって……えす…!?
「あんた、まさか、塔矢と…!?」
「ち…ちが…!」
ヒカルが、速攻否定した。社の顔の前で、ブンブンと大きく手を振った。
「塔矢はそんなことしない。すごく、優しいんだから…」
頬を薄紅色に染めて、ヒカルは俯いた。首筋まで紅く染まっている。
―――――残酷やなぁ…
嬉しくてしょうがなかった気持ちが、ほんの少し、しぼんでしまった。これから、SEXを
しようという相手に対して、平気で恋人ののろけ話をするなんて…。
―――――ホンマにオレとのことは、遊びなんやな…
いっそ「帰れ!」と、怒鳴ってしまえたら―――――出来るわけない…。遊びでも
何でもヒカルが欲しい。そんな自分にあきれる。
「どうかしたのか?」
ヒカルが社の顔を覗き込んだ。大きな目に情けない顔をした自分の姿が映っていた。
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―――――うじうじすんな!ガーンと、いてもうたれ!相手のヤツから獲ったらんかい!
これが、他人事なら平気で煽れる。けれど、いざ、自分のこととなると…。それに、
ヒカルの様子からして、アキラから奪うなんて不可能に近いのではないだろうか?
85年の阪神優勝の原動力、伝説のバックスクリーン三連発のバース、掛布、岡田の
三縦打線の援護があっても社に勝ち目はないような気がする。六甲颪が吹きすさぶ。
季節は春でも心は真冬だ。
社にとって、ヒカルは初めて好きになった相手だ。自分で言うのもなんだが、結構もてる
方だと思う。告白された回数は、片手では足りない。他校の女生徒から、ラブレターを
もらったこともある。可愛い女の子に告白されて、悪い気はしなかったが、どの子もピンと
来なかった。友人達に「贅沢だ」「もったいない」と責められたが、どうしても付き合う気には
なれなかった。
それがヒカルを見た瞬間、目が離せなくなった。男だと言うことは、このさい気にはならなかった。
それより、生まれて初めて芽生えたこの想いを何とかして伝えたいと思った。
それなのに……
「社?気分悪いのか?大丈夫?」
黙りこくったままの社をヒカルが気遣う。
「明日は大事な対局だもんな。ゆっくり休んだ方がいいかも…薬買ってこようか?」
ヒカルは、本当に心配しているらしい。大きな瞳が不安げに揺れている。
出ていこうとするヒカルを、とっさに抱きしめてしまった。
―――――遊びでもええ!進藤が好きや……!
社はヒカルにキスをした。辿々しい無骨なキスだった。
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「進藤…オレ…初めてやねん…」
ヒカルの髪に顔を埋めるようにして、社が呟いた。知識としてはある。だが、社はキスを
したのも初めてだった。ましてや、それ以上のことなど…。
ヒカルは、少し驚いたようだった。だが、すぐにフッと優しく笑うと社の胸にもたれ
かかってきた。
「そっか…オレが社の初めての相手なんだ…」
その言葉に社の全身がカッと熱く滾った。社にとってヒカルは初恋で、ファーストキスの相手で、
それから………。すごく、ドキドキした。心臓の鼓動が、ヒカルに聞こえてしまうのでは
ないかと思った。
―――――オレはメチャメチャラッキーや。これ以上望んだら、罰が当たる。
ヒカルが背伸びして、社にキスをした。一番最初にしたような、触れるだけの軽いキス。
思い切りヒカルを抱きしめたかった。でも、我慢した。ヒカルが痛いのはイヤだと言ったから、
力を入れないように必死で耐えた。ヒカルは、そんな社の葛藤に気づいていたのか、
「いいよ…好きにしていい…」
と、小さく囁いた。そうして、力を抜くと社に身体を預けた。
躊躇いながら、ヒカルのシャツの下に手を忍ばせる。すべすべした肌を撫でた。身体の作りは、
同じはずなのに、自分とはずいぶん違うような気がする。
―――――骨格自体が華奢なんかな?腰も、腕も、オレよりずっとヤワそうや…
なるほど、これでは乱暴に扱うわけにはいかない。大事に大事にしなければ、壊してしまう。
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社は、恋人を作らなかったことを少し後悔した。これから先、どうすればいいのか
見当もつかない。しまらんな〜オレってヤツは…。ヒカルは好きにしてかまわないと
言ったが、乱暴な真似はしたくない。だけど、自分が最後までそうしないでいられる自信は
全くない。
悩む社のTシャツに、ヒカルが手を掛けた。そのまま、胸まで捲り上げる。
「え…?ちょぉ、進藤…」
社は狼狽えた。かまわずヒカルは、社の胸に口づける。そして、胸に顔をすりつけるようにして、
社を見上げた。
「オレがしてあげる。」
えええぇぇぇぇ――――――――――――――!!!
それって、オレがヤラレるってことなんか?この可愛い進藤に?
慌ててヒカルを離そうとしたが、逆にヒカルは、社を思い切りベッドに突き飛ばした。
「わわわ…!」
仰向けにベッドに倒れた社に、ヒカルがダイブするように飛びついた。
「心配しなくていいよ。社って、可愛い…」
そう言いながら、キスをしてくれた。今日だけで何回キスしたっけ?でも、もっとしたい。
甘い唇。柔らかい舌。頭がクラクラする。
ヒカルは、ボーっとしている社から一旦離れると、自分で服を脱ぎ始めた。ぼんやりと
それを眺めていたが、ヒカルの裸体が少しずつ露わになり始めると、いっぺんに正気に戻った。
めっちゃキレイや……
社の想像したとおり、ヒカルの身体はどこもかしこも、簡単に壊れそうなくらい華奢だった。
陽の光にあたっていない、胸や腿は白くて、目が眩みそうだ。
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ヒカルが近づいてくる。社は、身体を起こしてヒカルを待った。細い腰に手を伸ばした。
社がヒカルを捕らえるより先に、ヒカルに手をつかまれた。ヒカルはそのまま跪くと、
社の指先に口づけた。
「あ…進藤…」
指を一本ずつ愛撫するように、口に含む。くすぐったいような、気持ちいいような…むず痒い
妙な感覚が社を包んだ。
愛らしい唇から、紅い舌がちらちらと覗く。それを見た瞬間、血液が一気に下半身に
集中した。
―――――げっ!やばい!節操のないやっちゃ……
社は、それを隠そうと足をもぞつかせたが、ヒカルの目はしっかりとその変化を捕らえていた。
ヒカルは微笑んで、社のジーンズのファスナーを下ろした。音がやけに響く。ジーンズの
ファスナーを下ろす音が、これほど艶めかしくきこえたことはなかった。
「進藤…あの…」
この場合、自分はどうすればいいのだろうか。一瞬の間に、いろんな考えが浮かんだが、
結局、ヒカルに任せるのが一番確かだという結論に達した。
「心配しないで…オレに任せて…ね?」
その優しい…だが力強い言葉に、社は複雑な気持ちだった。自分がとても情けない。
そして、自分の分身も情けないことこの上ない。ヒカルの指が触れただけで、達して
しまいそうになった。が、全ての気力を振り絞り何とか堪えた。いくら何でも、それは格好悪すぎる。
でも、このままではいつそうなってもおかしくない。それくらい気持ちがイイ…!
ヒカルの指が社自身を優しくさする。両手で包むようにして擦り上げらる度に、身体が
ふるえ、声が漏れる。
「ああ…進藤…うぁ…」
「気持ちイイ?イってもいいよ?」
そう言われて、素直にイクわけにはいかない。何とか堪えなければ…何とか…ああ…でも…イイ!
気を紛らわせるため、囲碁のことを考えた。しかし、それは逆効果だった。あのハラハラするような
今日の一局やヒカルの真剣な表情を思い出してしまった。可愛い外見とは裏腹のシビレるような
手を打つ強敵。その進藤がオレのモノを…それを考えると、すぐにでも弾けてしまいそうだ。
―――――そや!今日の監督の先生!渡辺先生ゆうたか、あのオッさん…
顔を思い浮かべてみる。魚を思わせる唇や、ゲジゲジというのも生ぬるいあの眉毛…。
吹き出してしまった。よっしゃぁ!これで、当分持つやろ。
いきなり笑い出した社を、ヒカルがびっくりした表情で見つめていた。
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