初めての体験 106 - 114


(106)
 あかん…!完璧失恋や〜グラスハートは粉々や…
わかっていたこととはいえ、本人にこうハッキリ断言されると落ち込む。それでも、表面上は、
「へぇ〜やっぱり、そうなんか。」
と、傷ついているそぶりも見せずにヒカルに笑いかけた。オレって見栄っ張りや…
ヒカルもそれに応えるようにニコニコと笑っていた。

 「入って。」
ヒカルを部屋に招き入れた。散らかった荷物を一カ所に纏め、碁盤を取り出した。
「さ、打とか。」
振り返って、ヒカルに笑いかけた。と、同時に柔らかく首に腕が巻かれ、社の唇は、ヒカルの
それに塞がれた。ほんの一瞬触れただけのキスだった。その一瞬が、社の思考の全てを奪った。
固まったまま、動かなくなった社の頬に、ヒカルはチュッともう一度キスをした。
「〜〜〜〜〜〜な、な、な、何すんねん――――――!!」
狼狽えて、大声で怒鳴った。顔から火が出そうだ。耳まで紅くした姿で、怒鳴っても
てんでしまらない。社の首にしがみついたまま、ヒカルが言った。
「オレ、社としてみたい。」
その言葉の意味を把握するまで、たっぷり一分はかかった。自分は今、最高に間抜けな顔を
しているだろう。
「イヤ?」
首を少し傾けて、ヒカルが間近に顔を寄せる。
 「イヤ?」って、イヤなわけがない。でも…。
「そ…そやけど、自分、塔矢とつきあっとるんとちゃうんか?」
「うん。オレ、塔矢が大好き。一番好き。」
ぬけぬけと言う。だけど、そう言って笑う顔がまた憎らしいくらい可愛かった。
「でもね…強いヤツにも興味があるんだ…だから、社のこと知りたい…」
再び、唇を塞がれた。今度のキスはさっきよりもずっと深く重ねられた。


(107)
 社は、ヒカルの華奢な腰に手を回し、もっと深くヒカルを味わおうとした。ヒカルの唇が
軽く開き、社を招いていた。舌を差し込むとすぐにヒカルがそれに応えた。ピチャピチャと
互いの舌を吸い合う音が社を興奮させた。ヒカルを抱く腕に力がこもった。
「ちょ…ちょっと待って…」
ヒカルが、身体を捩って、社の腕から逃れた。
「あの…あのさ、オレ、痛いのとか怖いのイヤなんだけど…」
痛そうに肩や腕をさすりながら、社を見る。
 言葉の意味がよくわからなかった。ヒカルの顔を穴が開きそうなほど、ジッと見つめた。
「だからぁ、縛ったりとか叩いたりとか…」
顔を赤らめて、最後の方はごにょごにょとごまかすように、ヒカルは言った。
 漸く理解して、社の頭にカーッと血が昇った。それって……えす…!?
「あんた、まさか、塔矢と…!?」
「ち…ちが…!」
ヒカルが、速攻否定した。社の顔の前で、ブンブンと大きく手を振った。
「塔矢はそんなことしない。すごく、優しいんだから…」
頬を薄紅色に染めて、ヒカルは俯いた。首筋まで紅く染まっている。
―――――残酷やなぁ…
 嬉しくてしょうがなかった気持ちが、ほんの少し、しぼんでしまった。これから、SEXを
しようという相手に対して、平気で恋人ののろけ話をするなんて…。
―――――ホンマにオレとのことは、遊びなんやな…
いっそ「帰れ!」と、怒鳴ってしまえたら―――――出来るわけない…。遊びでも
何でもヒカルが欲しい。そんな自分にあきれる。
「どうかしたのか?」
ヒカルが社の顔を覗き込んだ。大きな目に情けない顔をした自分の姿が映っていた。


(108)
―――――うじうじすんな!ガーンと、いてもうたれ!相手のヤツから獲ったらんかい!
 これが、他人事なら平気で煽れる。けれど、いざ、自分のこととなると…。それに、
ヒカルの様子からして、アキラから奪うなんて不可能に近いのではないだろうか?
 85年の阪神優勝の原動力、伝説のバックスクリーン三連発のバース、掛布、岡田の
三縦打線の援護があっても社に勝ち目はないような気がする。六甲颪が吹きすさぶ。
季節は春でも心は真冬だ。
 社にとって、ヒカルは初めて好きになった相手だ。自分で言うのもなんだが、結構もてる
方だと思う。告白された回数は、片手では足りない。他校の女生徒から、ラブレターを
もらったこともある。可愛い女の子に告白されて、悪い気はしなかったが、どの子もピンと
来なかった。友人達に「贅沢だ」「もったいない」と責められたが、どうしても付き合う気には
なれなかった。
 それがヒカルを見た瞬間、目が離せなくなった。男だと言うことは、このさい気にはならなかった。
それより、生まれて初めて芽生えたこの想いを何とかして伝えたいと思った。
それなのに……

「社?気分悪いのか?大丈夫?」
黙りこくったままの社をヒカルが気遣う。
「明日は大事な対局だもんな。ゆっくり休んだ方がいいかも…薬買ってこようか?」
ヒカルは、本当に心配しているらしい。大きな瞳が不安げに揺れている。
 出ていこうとするヒカルを、とっさに抱きしめてしまった。
―――――遊びでもええ!進藤が好きや……!
社はヒカルにキスをした。辿々しい無骨なキスだった。


(109)
 「進藤…オレ…初めてやねん…」
ヒカルの髪に顔を埋めるようにして、社が呟いた。知識としてはある。だが、社はキスを
したのも初めてだった。ましてや、それ以上のことなど…。
 ヒカルは、少し驚いたようだった。だが、すぐにフッと優しく笑うと社の胸にもたれ
かかってきた。
「そっか…オレが社の初めての相手なんだ…」
その言葉に社の全身がカッと熱く滾った。社にとってヒカルは初恋で、ファーストキスの相手で、
それから………。すごく、ドキドキした。心臓の鼓動が、ヒカルに聞こえてしまうのでは
ないかと思った。
―――――オレはメチャメチャラッキーや。これ以上望んだら、罰が当たる。
 ヒカルが背伸びして、社にキスをした。一番最初にしたような、触れるだけの軽いキス。
思い切りヒカルを抱きしめたかった。でも、我慢した。ヒカルが痛いのはイヤだと言ったから、
力を入れないように必死で耐えた。ヒカルは、そんな社の葛藤に気づいていたのか、
「いいよ…好きにしていい…」
と、小さく囁いた。そうして、力を抜くと社に身体を預けた。
 躊躇いながら、ヒカルのシャツの下に手を忍ばせる。すべすべした肌を撫でた。身体の作りは、
同じはずなのに、自分とはずいぶん違うような気がする。
―――――骨格自体が華奢なんかな?腰も、腕も、オレよりずっとヤワそうや…
なるほど、これでは乱暴に扱うわけにはいかない。大事に大事にしなければ、壊してしまう。


(110)
 社は、恋人を作らなかったことを少し後悔した。これから先、どうすればいいのか
見当もつかない。しまらんな〜オレってヤツは…。ヒカルは好きにしてかまわないと
言ったが、乱暴な真似はしたくない。だけど、自分が最後までそうしないでいられる自信は
全くない。
 悩む社のTシャツに、ヒカルが手を掛けた。そのまま、胸まで捲り上げる。
「え…?ちょぉ、進藤…」
社は狼狽えた。かまわずヒカルは、社の胸に口づける。そして、胸に顔をすりつけるようにして、
社を見上げた。
「オレがしてあげる。」
 えええぇぇぇぇ――――――――――――――!!!
それって、オレがヤラレるってことなんか?この可愛い進藤に?
 慌ててヒカルを離そうとしたが、逆にヒカルは、社を思い切りベッドに突き飛ばした。
「わわわ…!」
仰向けにベッドに倒れた社に、ヒカルがダイブするように飛びついた。
「心配しなくていいよ。社って、可愛い…」
そう言いながら、キスをしてくれた。今日だけで何回キスしたっけ?でも、もっとしたい。
甘い唇。柔らかい舌。頭がクラクラする。
 ヒカルは、ボーっとしている社から一旦離れると、自分で服を脱ぎ始めた。ぼんやりと
それを眺めていたが、ヒカルの裸体が少しずつ露わになり始めると、いっぺんに正気に戻った。
めっちゃキレイや……
社の想像したとおり、ヒカルの身体はどこもかしこも、簡単に壊れそうなくらい華奢だった。
陽の光にあたっていない、胸や腿は白くて、目が眩みそうだ。


(111)
 ヒカルが近づいてくる。社は、身体を起こしてヒカルを待った。細い腰に手を伸ばした。
社がヒカルを捕らえるより先に、ヒカルに手をつかまれた。ヒカルはそのまま跪くと、
社の指先に口づけた。
「あ…進藤…」
指を一本ずつ愛撫するように、口に含む。くすぐったいような、気持ちいいような…むず痒い
妙な感覚が社を包んだ。
 愛らしい唇から、紅い舌がちらちらと覗く。それを見た瞬間、血液が一気に下半身に
集中した。
―――――げっ!やばい!節操のないやっちゃ……
社は、それを隠そうと足をもぞつかせたが、ヒカルの目はしっかりとその変化を捕らえていた。
 ヒカルは微笑んで、社のジーンズのファスナーを下ろした。音がやけに響く。ジーンズの
ファスナーを下ろす音が、これほど艶めかしくきこえたことはなかった。
「進藤…あの…」
この場合、自分はどうすればいいのだろうか。一瞬の間に、いろんな考えが浮かんだが、
結局、ヒカルに任せるのが一番確かだという結論に達した。
「心配しないで…オレに任せて…ね?」
その優しい…だが力強い言葉に、社は複雑な気持ちだった。自分がとても情けない。
 そして、自分の分身も情けないことこの上ない。ヒカルの指が触れただけで、達して
しまいそうになった。が、全ての気力を振り絞り何とか堪えた。いくら何でも、それは格好悪すぎる。
でも、このままではいつそうなってもおかしくない。それくらい気持ちがイイ…!
 ヒカルの指が社自身を優しくさする。両手で包むようにして擦り上げらる度に、身体が
ふるえ、声が漏れる。
「ああ…進藤…うぁ…」
「気持ちイイ?イってもいいよ?」
そう言われて、素直にイクわけにはいかない。何とか堪えなければ…何とか…ああ…でも…イイ!
 気を紛らわせるため、囲碁のことを考えた。しかし、それは逆効果だった。あのハラハラするような
今日の一局やヒカルの真剣な表情を思い出してしまった。可愛い外見とは裏腹のシビレるような
手を打つ強敵。その進藤がオレのモノを…それを考えると、すぐにでも弾けてしまいそうだ。
―――――そや!今日の監督の先生!渡辺先生ゆうたか、あのオッさん…
顔を思い浮かべてみる。魚を思わせる唇や、ゲジゲジというのも生ぬるいあの眉毛…。
吹き出してしまった。よっしゃぁ!これで、当分持つやろ。
 いきなり笑い出した社を、ヒカルがびっくりした表情で見つめていた。


(112)
 しかし、社の抵抗もここまでだった。社に男の意地があるように、ヒカルにも意地が
あったようだ。どんな意地なのかは、怖いので、この際考えないようにした。
「あ…アカン!進藤!ああっ」
ヒカルが社を舐めたのだ。先端にそっと口を付けると、そのまま含んだ。赤ん坊がミルクを
飲むように先端を舌で押すようにして、吸い上げた。
 社は、簡単に陥落した。体中をけだるい心地よさが包んでいる。社の吐き出したモノを
ヒカルは目の前で飲んで見せた。社は、驚いてヒカルを凝視した。
―――――飲んだ…飲んでしもた……進藤が…オレのンを…全部…
イったばかりなのに、また熱くなってきた。これが、ヒカルの手なのか?こんな姿を見せられて、
我慢できるヤツはいない。

 「社…ゴメン…ちょっと待ってて…」
ヒカルがリュックの中から、何か小さな瓶を取りだした。
「進藤…ナニそれ?」
何の含みもない純粋な好奇心から、訊ねた。
「これは…その…」
ヒカルは、モジモジと言いにくそうに口ごもった。
「このままじゃ入らないから…これで…その…」
 社は絶句した。ヒカルに対してではない。自分の間抜けさ加減にだ。
ああああぁぁ―――――――――――――――――!!
オレは、どこまで鈍感やねん!言いにくいこと言わせて…進藤に恥かかすなんて…!
 社は、ヒカルに謝ろうとした。だが、上手い言葉が出てこない。そんな社の態度を
どう受け取ったのか、ヒカルはちょっと困ったような哀しげな笑顔を浮かべていた。
「ここでするの恥ずかしいから…」
バスルームに行こうとしたヒカルを、抱きしめる。
「オレにやらせてくれへんか…?ヘタやけど…進藤にしたい…」
そう言ってキスをした。ヒカルの甘い唇から、微かに自分の味がした。


(113)
 ヒカルをベッドに寝かせると、社は、自分も服を全部脱ぎ捨てた。SEXのやり方なんて
知らない。でも、ヒカルが社にしてくれたように、社もヒカルを気持ちよくしてあげたかった。
ヒカルの口づけが社をとろかしたように、ヒカルにも感じて欲しい。
 社は、ヒカルの身体に改めて見入った。何度見ても、やっぱりキレイだ。細い首筋に
触れてみた。ヒカルの身体がビクッと震えた。慌てて手を引っ込める。傷つけるのが怖かったから…。
気を取り直して、もう一度、頬や顎、首筋をなぞる。肌の感触が気持ちイイ。ヒカルの
温かな肌は、碁石の冷たい感触しか知らなかった社に感動を与えた。
――――――アホか!オレが気持ちようがって、どうすんねん!
進藤を気持ちようしたらなアカンのや!
そうは思っても、ヒカルの滑らかな肌の感触はなんとも言えず心地よく、社は手を離すことが
できなかった。何度も同じ場所を繰り返して撫でていると、ヒカルの唇から、微かに息が漏れた。
「あぁ…やしろ…」
ヒカルは目を閉じて、社の手の動きに全身を集中させているようだった。社の気持ちを感じ取って、
社を全身で感じようとしていた。ヒカルの気持ちがうれしかった。自分の下手な愛撫に
応えてくれようとしている。堪らなく愛しい。メチャクチャ好きや…進藤…。


(114)
 無意識のうちにヒカルの肌に唇を寄せていた。首筋を軽く吸った。
甘いのは唇だけやないんや…
他の場所はどうなんだろうか?もっと知りたい。いろんなところに触れてみる。指先や
唇をつかって、ヒカルの身体を確かめようとした。
「ア…やだ…」
社が胸の突起に触れたとき、ヒカルが小さく喘いだ。木苺のようなそれを口に含んでみる。
甘い。もしかしたらヒカルは、砂糖菓子か何かで出来ているのではないだろうか?一口だけじゃ
物足りない。何度も舌で転がしていると、少し大きくなった。それに、軽く歯を立ててみる。
「やしろ…やだってばぁ…あぁ…」
いくら社でも、本当に嫌がっているかどうかくらいはわかる。ヒカルの頬は上気し、全身
うっすらと薄い桃色に染まっていた。自分の無骨な指先が、ヒカルに快感を与えている。
社は歓喜した。
―――――進藤…オマエのためやったら、何でもする!
 ヒカルの股間に触れた。さっき、自分がしてもらったように、ヒカルにも返したい。
社は、それをゆっくりとさすった。
「あぁ!ハァ…ア…ん…」
ヒカルが、吐息混じりの甘い悲鳴を上げた。手の中のヒカルは、ヒクヒクと震えながら、
蜜を溢れさせている。まるで社を誘っているようだった。吸い寄せられるように、唇を
近づけた。まったく躊躇いがなかったと言えば、ウソになるが……ヒカルの声が、姿が、
社の中の常識を粉々にうち砕いた



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