Linkage 107 - 108


(107)
 スプーンをアキラに手渡して冷蔵庫を開けると、緒方は薬の小瓶を取り出した。
棚から適当にグラスと小皿を選び出すと、グラスに小瓶の中身の9割近くを注ぎ、小瓶の蓋を
しっかりと閉めた。
「3、4日分だとこんなものかな。今日はこれだけだ。足りなくなったら自宅でも携帯でも
いいから連絡してくれ。研究会や碁会所で会う時に渡すから」
 アキラは緒方の言葉にこっくりと頷く。
緒方はグラスの上に小皿を蓋代わりに載せて冷蔵庫にしまうと、薬の小瓶をアキラの持つ
スプーンと一緒に手近な紙袋に入れた。
「ランドセルに入れるか?」
「あっ…今開けるから、入れてください」
 背負っていたランドセルの留め金をアキラが外すと、緒方は蓋を開けて中に紙袋を入れてやる。
蓋を閉じ、しみじみとランドセルを眺める緒方が思わず呟いた。
「これだけ痛みがないと、もう6年余裕で使えるんじゃないか?再来月でお役ご免とは勿体無いな」
 留め金を掛けながら笑うアキラの肩に緒方は手を置くと、その手に力を込め、アキラの耳元で念を押す。
「今度の量なら大丈夫とは思うが、くれぐれも慎重に頼むぞ。それから、この薬のことは
アキラ君とオレだけの秘密だからな。……しかし、子供がこんな薬に頼らなけりゃ寝付けないとは……。
どうなってるんだ、最近の小学生は?」
「……こうなってるんです」
 呆れたように肩をすくめる緒方に、アキラは緒方同様肩をすくめ、はにかんだ笑顔を見せた。


(108)
 塔矢家に向かうRX-7は幹線道路で夕刻の渋滞に巻き込まれ、なかなか先に進まなない。
ハンドルを握る緒方はやや苛ついた表情で煙草を手に取り、すっかり手に馴染んだ
銀色のライターで火を付けた。
面白くもないトークが続くラジオを切ると、運転席側の窓を僅かに開け、時計に目を遣る。
「夕飯には間に合うか?」
「……あと1時間くらいあるし、大丈夫じゃないかなぁ……」
「側道に入る手もあるが……。恐らく他のドライバーも同じことを考えているだろうし、
下手なことはしない方がいいな。このまましばらくノロノロだが、我慢してくれよ」
 助手席に座るアキラは、膝の上に置いたランドセルを抱えて頷く。
「ランドセル、後ろに置いたらどうだ?どうせしばらくかかるんだ」
 緒方は銜え煙草でアキラのランドセルを持ち上げると、後部に置いてやった。
煙を窓の隙間に向けて吐き出すと、思い出したように呟く。
「そういえば……アキラ君、今日は学校で体育はなかったか?」
 突拍子もない質問にアキラは驚いたが、すぐに緒方の言わんとすることを察し、
首を横に振った。
「今日は体育はなかったけど、明日はあるんです。もし今日だったら、見学してたかも……」
 アキラの口調に緒方を責めるような雰囲気はなかった。
むしろ、どこか愉快そうな印象すら受ける。
「……明日は見学じゃないよな?」
 なんとなく気まずそうに尋ねる緒方に、アキラはクスッと笑った。
「明日は見学しないですよ。ボクの好きな跳び箱だし!」



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