平安幻想異聞録-異聞- 107 - 108
(107)
もう一度、菅原の指がそこを愛撫する。
同時にヒカルの体の皮膚が粟立ち、崩れるように下半身から力が抜けて、
菅原の陽物を更に奥に飲み込む。他の事を考えるどころではなかった。
腰の筋肉をおののかせ、体を襲った強いしびれが通りすぎるのを
待っているヒカルの耳元にむけて、菅原がつぶやいた。
「ここは蟻の戸渡りと言ってのう。男ならここをいじられて感じぬ奴はおらぬわ」
そう言って、そこを集中的に指でいじり始めた。その間も腰を細かに揺すり、
ヒカルの甘肉を味わうことも忘れない。
「うっーーーーっっ!うっーーっっ!うっーーっっ!」
ヒカルが、菅原の指攻めから逃れようと暴れた。
暴れるたび、手首を支える縄が、ヒカルの手首の傷に食い込んで
するどい痛みを訴えた。
だが、その部分から送られてくる痛みだけが今、快楽に堕ちそうになるヒカルの
わずかな正気をつなぎ止めるものだった。
(なにか、なにか、……他の事を考えていよう……。だめだ、このままじゃ、…だめ)
だが、ヒカルの意思に反して、体はどうしょうもなく転がり落ちていく。
体が駄目なら、せめて。
せめて、心だけでもここに押しとどめておきたい。
何か、別のことを。
(佐為、今ごろ、どうしてる? オレのこと心配してくれてる?)
菅原が、ヒカルの体を自らの熱い槍で貫通させる勢いで、押し上げた。
「うんーーーーっっっ!!」
(賀茂のやつ、大丈夫かな。オレのことで責任感じてなきゃいいけど)
同じ勢いで、幾度も繰り返し繰り返し、ヒカルの内蔵をその鍛えられた鉄槍で
突き刺してくる。
「んんんっ、んんっ、うんーっっっ!」
ヒカルが、苦しげに頭を左右に打ち振った。
(佐為、オレは大丈夫だから…心配するなよ。大丈夫)
腹の奥深く、熱いドロドロした液体が巻き散らされるのを感じた。
菅原が終わったのとほとんど同時にヒカルも自分の熱を吐きだす。
体から力が抜けると同時に、また菅原の槍がまた奥深くに刺さったが、
奥歯に力を入れてなんとか声を出さずに耐える。
(……大丈夫)
――体なんて、どうにでも好きにすればいい。
だけど、自分の心はきっと別の場所にある。
(108)
次の日、ともすればふらつく体をささえて、ヒカルは昨日と同じように、
座間とともに出仕した。
佐為には会わなかった。それがせめてもの救いだった。
座間は、帝の御用事とかで清涼殿に上った。さすがにその殿上の間までは、
いくら警護役と言えど、ヒカルごとき身分のものがおいそれと入り込める
ところではない。宜陽殿の一室で座間の用事が終わるまで控えることになった。
ヒカルはほっと息をつく。
たった2日の事なのに座間の目も菅原の目も届かない場所にいるのは
久しぶりな気がした。ここにいるのは、ヒカルと同じように、貴人の用が
終わるのを待つ従者や武人、位の低い貴族ばかりだ。
ヒカルは部屋の隅の柱の近くに座り、目を閉じる。そのままそっと柱に
もたれかかった。
眠かった。夕べの疲れがぜんぜん抜けていない。今夜もおそらく、座間と菅原が
自分の部屋を訪れるつもつもりだろうことは、ヒカルでもわかる。
それまでに、せめて少しでも体力を回復しておきたい。
この待ち時間は今のヒカルにとってはまたとない休息時間だ。
だが、うつらうつらとした浅い眠りから、いよいよ深い眠りに移ろうかと
言う時、何かが額にあたって、ヒカルを覚醒させた。
目を開けると、膝の上に扇が1本落ちていた。
誰かが、この扇を投げて、ヒカルの額に当てたのだ。
貴重な休憩時間を邪魔されたことに無性に腹がたって、ヒカルはそれを
投げた犯人を捜した。
犯人はすぐに見つかった。ヒカルの視線の先、まっすぐ前に立つ、
野性的な面ざしの男。
そこには加賀諸角が立っていたのだ。
「警護役が、みっともなく居眠りなんかしてんじゃねえよ」
加賀はそういいながら近づいてくると、かったるそうにヒカルの横に
腰を降ろした。
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