初めての体験 107 - 110
(107)
社は、ヒカルの華奢な腰に手を回し、もっと深くヒカルを味わおうとした。ヒカルの唇が
軽く開き、社を招いていた。舌を差し込むとすぐにヒカルがそれに応えた。ピチャピチャと
互いの舌を吸い合う音が社を興奮させた。ヒカルを抱く腕に力がこもった。
「ちょ…ちょっと待って…」
ヒカルが、身体を捩って、社の腕から逃れた。
「あの…あのさ、オレ、痛いのとか怖いのイヤなんだけど…」
痛そうに肩や腕をさすりながら、社を見る。
言葉の意味がよくわからなかった。ヒカルの顔を穴が開きそうなほど、ジッと見つめた。
「だからぁ、縛ったりとか叩いたりとか…」
顔を赤らめて、最後の方はごにょごにょとごまかすように、ヒカルは言った。
漸く理解して、社の頭にカーッと血が昇った。それって……えす…!?
「あんた、まさか、塔矢と…!?」
「ち…ちが…!」
ヒカルが、速攻否定した。社の顔の前で、ブンブンと大きく手を振った。
「塔矢はそんなことしない。すごく、優しいんだから…」
頬を薄紅色に染めて、ヒカルは俯いた。首筋まで紅く染まっている。
―――――残酷やなぁ…
嬉しくてしょうがなかった気持ちが、ほんの少し、しぼんでしまった。これから、SEXを
しようという相手に対して、平気で恋人ののろけ話をするなんて…。
―――――ホンマにオレとのことは、遊びなんやな…
いっそ「帰れ!」と、怒鳴ってしまえたら―――――出来るわけない…。遊びでも
何でもヒカルが欲しい。そんな自分にあきれる。
「どうかしたのか?」
ヒカルが社の顔を覗き込んだ。大きな目に情けない顔をした自分の姿が映っていた。
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―――――うじうじすんな!ガーンと、いてもうたれ!相手のヤツから獲ったらんかい!
これが、他人事なら平気で煽れる。けれど、いざ、自分のこととなると…。それに、
ヒカルの様子からして、アキラから奪うなんて不可能に近いのではないだろうか?
85年の阪神優勝の原動力、伝説のバックスクリーン三連発のバース、掛布、岡田の
三縦打線の援護があっても社に勝ち目はないような気がする。六甲颪が吹きすさぶ。
季節は春でも心は真冬だ。
社にとって、ヒカルは初めて好きになった相手だ。自分で言うのもなんだが、結構もてる
方だと思う。告白された回数は、片手では足りない。他校の女生徒から、ラブレターを
もらったこともある。可愛い女の子に告白されて、悪い気はしなかったが、どの子もピンと
来なかった。友人達に「贅沢だ」「もったいない」と責められたが、どうしても付き合う気には
なれなかった。
それがヒカルを見た瞬間、目が離せなくなった。男だと言うことは、このさい気にはならなかった。
それより、生まれて初めて芽生えたこの想いを何とかして伝えたいと思った。
それなのに……
「社?気分悪いのか?大丈夫?」
黙りこくったままの社をヒカルが気遣う。
「明日は大事な対局だもんな。ゆっくり休んだ方がいいかも…薬買ってこようか?」
ヒカルは、本当に心配しているらしい。大きな瞳が不安げに揺れている。
出ていこうとするヒカルを、とっさに抱きしめてしまった。
―――――遊びでもええ!進藤が好きや……!
社はヒカルにキスをした。辿々しい無骨なキスだった。
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「進藤…オレ…初めてやねん…」
ヒカルの髪に顔を埋めるようにして、社が呟いた。知識としてはある。だが、社はキスを
したのも初めてだった。ましてや、それ以上のことなど…。
ヒカルは、少し驚いたようだった。だが、すぐにフッと優しく笑うと社の胸にもたれ
かかってきた。
「そっか…オレが社の初めての相手なんだ…」
その言葉に社の全身がカッと熱く滾った。社にとってヒカルは初恋で、ファーストキスの相手で、
それから………。すごく、ドキドキした。心臓の鼓動が、ヒカルに聞こえてしまうのでは
ないかと思った。
―――――オレはメチャメチャラッキーや。これ以上望んだら、罰が当たる。
ヒカルが背伸びして、社にキスをした。一番最初にしたような、触れるだけの軽いキス。
思い切りヒカルを抱きしめたかった。でも、我慢した。ヒカルが痛いのはイヤだと言ったから、
力を入れないように必死で耐えた。ヒカルは、そんな社の葛藤に気づいていたのか、
「いいよ…好きにしていい…」
と、小さく囁いた。そうして、力を抜くと社に身体を預けた。
躊躇いながら、ヒカルのシャツの下に手を忍ばせる。すべすべした肌を撫でた。身体の作りは、
同じはずなのに、自分とはずいぶん違うような気がする。
―――――骨格自体が華奢なんかな?腰も、腕も、オレよりずっとヤワそうや…
なるほど、これでは乱暴に扱うわけにはいかない。大事に大事にしなければ、壊してしまう。
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社は、恋人を作らなかったことを少し後悔した。これから先、どうすればいいのか
見当もつかない。しまらんな〜オレってヤツは…。ヒカルは好きにしてかまわないと
言ったが、乱暴な真似はしたくない。だけど、自分が最後までそうしないでいられる自信は
全くない。
悩む社のTシャツに、ヒカルが手を掛けた。そのまま、胸まで捲り上げる。
「え…?ちょぉ、進藤…」
社は狼狽えた。かまわずヒカルは、社の胸に口づける。そして、胸に顔をすりつけるようにして、
社を見上げた。
「オレがしてあげる。」
えええぇぇぇぇ――――――――――――――!!!
それって、オレがヤラレるってことなんか?この可愛い進藤に?
慌ててヒカルを離そうとしたが、逆にヒカルは、社を思い切りベッドに突き飛ばした。
「わわわ…!」
仰向けにベッドに倒れた社に、ヒカルがダイブするように飛びついた。
「心配しなくていいよ。社って、可愛い…」
そう言いながら、キスをしてくれた。今日だけで何回キスしたっけ?でも、もっとしたい。
甘い唇。柔らかい舌。頭がクラクラする。
ヒカルは、ボーっとしている社から一旦離れると、自分で服を脱ぎ始めた。ぼんやりと
それを眺めていたが、ヒカルの裸体が少しずつ露わになり始めると、いっぺんに正気に戻った。
めっちゃキレイや……
社の想像したとおり、ヒカルの身体はどこもかしこも、簡単に壊れそうなくらい華奢だった。
陽の光にあたっていない、胸や腿は白くて、目が眩みそうだ。
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