平安幻想異聞録-異聞- 108


(108)
次の日、ともすればふらつく体をささえて、ヒカルは昨日と同じように、
座間とともに出仕した。
佐為には会わなかった。それがせめてもの救いだった。
座間は、帝の御用事とかで清涼殿に上った。さすがにその殿上の間までは、
いくら警護役と言えど、ヒカルごとき身分のものがおいそれと入り込める
ところではない。宜陽殿の一室で座間の用事が終わるまで控えることになった。
ヒカルはほっと息をつく。
たった2日の事なのに座間の目も菅原の目も届かない場所にいるのは
久しぶりな気がした。ここにいるのは、ヒカルと同じように、貴人の用が
終わるのを待つ従者や武人、位の低い貴族ばかりだ。
ヒカルは部屋の隅の柱の近くに座り、目を閉じる。そのままそっと柱に
もたれかかった。
眠かった。夕べの疲れがぜんぜん抜けていない。今夜もおそらく、座間と菅原が
自分の部屋を訪れるつもつもりだろうことは、ヒカルでもわかる。
それまでに、せめて少しでも体力を回復しておきたい。
この待ち時間は今のヒカルにとってはまたとない休息時間だ。
だが、うつらうつらとした浅い眠りから、いよいよ深い眠りに移ろうかと
言う時、何かが額にあたって、ヒカルを覚醒させた。
目を開けると、膝の上に扇が1本落ちていた。
誰かが、この扇を投げて、ヒカルの額に当てたのだ。
貴重な休憩時間を邪魔されたことに無性に腹がたって、ヒカルはそれを
投げた犯人を捜した。
犯人はすぐに見つかった。ヒカルの視線の先、まっすぐ前に立つ、
野性的な面ざしの男。
そこには加賀諸角が立っていたのだ。
「警護役が、みっともなく居眠りなんかしてんじゃねえよ」
加賀はそういいながら近づいてくると、かったるそうにヒカルの横に
腰を降ろした。



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