Linkage 109 - 110


(109)
「アキラ君、跳び箱が好きなのか?」
 アキラは嬉々として大きく頷いた。
「跳んでる瞬間がなんだか気持ちよくて、好きなんです。卒業までに8段跳べるように
なりたいなぁ……」
 楽しそうに話すアキラに、緒方はホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、今は7段が跳べるわけか。一番高いのは何段だ?」
「8段!」
 アキラはすかさず答えると、何やら呟き始めた。
「……もうちょっとで跳べそうなのに、どうしても上に座っちゃって……。踏み切りが
いけないのかなぁ……?」
「最高段位が8段で、今は7段か……。アキラ君は、かなりの高段者じゃないか」
 緒方の言葉にアキラは笑い出した。
「跳び箱の世界では、ボクは高段者なのかな?」
「十分高段者だ。跳び箱にもタイトルがあったりするのか?」
 煙草を揉み消しながらふざけて尋ねる緒方に、アキラは真顔で答える。
「実はあるんですよ。8段で開脚跳びと閉脚跳びと台上前転が全部できたらタイトル
ホルダーになれるんです!」
「ハハ!碁じゃなくて跳び箱のタイトルなら、オレにもすぐ取れそうだな……」
「……緒方さん、ボクの言ったこと本気にしました?」
 余裕の笑みを浮かべるアキラに、緒方は手にした2本目の煙草を一瞬取り落とし
そうになった。
「……大人をからかうとは、いい根性だな……」
 一斉に吹き出して大笑いする2人だったが、なんとか笑いを抑え込んだ緒方が
感慨深げに呟く。
「アキラ君が体育好きとは以外だな」
「……えっ?」
「どちらかというと、身体を動かすより、大人しく本でも読んでる方が好きなんじゃないか?」
 しばらく考え込んでいたアキラは、訥々と話し出した。
「……跳び箱はひとりでするから好きなんだろうな……。チームでする競技は、
ボクあんまり好きじゃないし……」
「……なんだ。オレと考え方が似てるぞ」
 薄く笑う緒方に、アキラは不思議そうな表情を浮かべた。


(110)
「個人競技は好きだが、団体競技は嫌いということさ。チームワークとか協調性とか……ああいうのは
かったるいんだよなァ……」
「ボクもそうかもしれない……。卒業式の前に6年生のクラス対抗ドッジボール大会があるんだけど、
ボクやりたくないんだよなぁ……」
 さも嫌そうにぽつりと漏らすアキラの横顔を見遣ると、緒方は皮肉ぽっく笑った。
「クックック。ドッジボールか……。なんだかんだ言っても、アキラ君はボールを持つと性格が
一変しそうな気がするんだが……」
「……どういう意味ですか?」
 アキラは釈然としない様子で緒方に詰め寄る。
「最初はやる気が全然なくて『面倒だからボールが来ないといいな』とか言ってるくせに、
いざボールを手にすると……ってヤツさ。アキラ君はボールを持つと、表向きは気乗りしない
振りをして、内心『さあ、誰に当ててやろうか?』なんて敵陣の獲物を物色してそうに思えて
ならないんだが……」
「……どうしてわかるんですか?」
 言い当てられてムッとするアキラを横目に、緒方は再び煙草を揉み消して窓を閉めると、
ウィンカーを出した。
「やはりそうか。早い話、オレがそういうガキだったんで、アキラ君もそんなことだろうと
思ったまでさ。……さて、そろそろ渋滞ともおさらばだぞ」



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