トーヤアキラの一日 11
(11)
アキラが、ヒカルのアキラに対する呼び方の変化に気付いたのは、いつ頃だっただろうか?
日頃は、はっきりとアキラの事を「塔矢」と呼ぶヒカルだが、2人きりになって、甘える
素振りを見せる時には、少し鼻にかかった間延びした口調で「トーヤ」と言って来る。
さらに2人だけの秘密の時間になると、何かをねだるように「トーヤぁ」と囁く。そして、
理性を飛ばして快楽に溺れている時には「トーゃぁ、トーゃぁ」と連呼するのである。
その事は、もちろん本人には話していない。そんな話をすれば、ヒカルが意識してしまい、
言わなくなるのが目に見えているからだ。
この事は、アキラ以外誰も知らない、ヒカルの欲情バロメーターになっている。
アキラが3軒先にあるゴミ集積場に袋を置いて玄関に戻ると、外で車が止まる音がする。
あっ!と思い、急いで自室に戻る。封筒と印鑑を手に取り玄関に走ろうとすると、案の定
チャイムと共に外で大きな声がする
「塔矢さーん、アキカン便で〜す!」
───あれ?山猫宅急便で来るはずだけど・・・・・
そう思いながら急いで玄関の戸を開ける。配達員は伝票を見ながら、
「認めお願いしまーす」
と言い、品物をアキラに手渡す。発泡スチロールで出来た箱の両側から、持ちやすいように
紐が付けられている。アキラは片手でそれを受け取りながら印鑑を差し出す。
「はい、どーもー」
と伝票に印を押して、印鑑を返す時、配達員は初めて相手が子供である事に気が付いた。
不安になったのか、品物を見ながら念のために言葉を添える
「冷凍便ですから」
|