白と黒の宴2 11
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料理長のその言葉を聞いて社を見ると、その時は何故か社はアキラから目を反らした。
何かふとアキラは社が抱えている孤独感のようなものを嗅ぎとった。
周囲の大人達に期待され、同じ年代の碁を打つ者達は全てライバルでしかない。
アキラが置かれていた環境も同じだった。自分はそれを淋しいとは思わなかった。
淋しいと思っても仕方なかったからだ。社が何故自分に執着するのかと考えると、
どこか同じ孤独感を持つ者同士という匂いを感じたのかもしれない。
だからと言って、彼が自分にした行為を許すわけにはいかない。
食事を終えて店を出ると裏通りはすでに真っ暗だった。
「もっとエエ場所だったらごっつう繁盛すると思うんやけどな。」
店の看板を見上げて社が誰に言うともなく呟き、アキラに同意を求めるように笑顔で振り返る。
「用が済んだのなら、帰らせてもらうよ。」
アキラの相槌をうつ意志の欠片も無い返答に、社の顔から笑顔が消えた。
そうして明るい通りへと急ごうとした、そのアキラの腕を、社が掴んだ。
「あっ…!!」
アキラが身を固くする。社は強い力でアキラの体を引き寄せるとその場でアキラの唇に
強引に自分の唇を重ね合わせた。
裏通りではあっても人が居ないわけではない。繁華街が目の前と言う事もあって時間的に
目的なく彷徨う輩がそこここにいる。驚いて一瞬立ち止まり、口笛を拭く若者らがいた。
もちろん社の風体にそれ以上にしつこく冷やかそうとする者はいないようであったが。
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