誘惑 第三部 11
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「キミが好きだ。」
唐突に言われた言葉に、思わず息を飲んでヒカルはアキラの顔を見つめた。それが睨んでいる
ように、非難しているようにでも見えたのか、アキラはヒカルの視線に僅かにたじろいで、それでも
尚、続けた。
「ずっと、色々考えてて、でもわかったのは、どうしても譲れないのは、キミが好きだって事だけだっ
た。キミのした事が許せないとか、ボクを許して欲しいとか、でも、そんな事よりも、許せなくても、
許してもらえなくても、それでもキミが好きだって。」
ヒカルが顔を上げてアキラを見た。
「キミがボクの事を許せないんだとしても、それでキミがもうボクに愛想を尽かしたとしても、ボク
以外の誰かをボクよりも好きだと言っても、それでもボクは…」
射るように見つめるヒカルの視線がつらい、と言うように、一瞬アキラが視線を揺らす。だが必死
にその視線をヒカルに戻して、続ける。
「ボクはボクに自信がない。自分の事も全然わからない。信じられるものなんて何もないのか
もしれない。だけど、ボクがキミを好きだって事だけは信じられる。キミを好きだって言う気持ちが、
ボクの中で一番信じられるものだ。
キミが好きだ。ボクが好きなのはキミだけだ。ずっと、今も。それだけ、言いに来たんだ。」
少しでも動いたら、唇を僅かに動かすだけでも、アキラへの思いが溢れて、叫びだしてしまいそう
になる。だからヒカルはそれをぐっとこらえて、睨みつけるようにアキラを見ていた。
アキラの手がヒカルの方へそっと伸びる。けれどそれは触れる前に途中で躊躇するように止まる。
そしてヒカルを見つめていた視線をそらし、伸ばしかけた手をおろして拳をぎゅっと握る。
空気がピリピリと痛い。
「それだけ、言いたかったんだ。」
ヒカルがアキラを睨みあげた。
やっぱり、怒ってるんだね。そう言いたげな目でアキラがヒカルを見た。
けれどヒカルは応えない。応えずに無言でアキラを睨むばかりだった。
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