sai包囲網・中一の夏編 11
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初心者と熟練者、拙い一手と巧みな石運び。あまりにもそのギャップ
が激し過ぎる進藤。緒方さんは神か化け物かと言っていたけれど、千年
前の碁打ちの幽霊が彼の中に潜んでいるきなら、確かにその通りだ。
「オレの話はこれで全部だよ。信じるも信じないも、勝手だけどな」
それでも、本当のことを話したんだから、saiの秘密を黙っていて
くれよと、進藤は言った。
「もう、saiに打たせる気はないの?」
「佐為にはこれからもネットで打たせてやるつもりだったんだ。ネット
碁ならオレを通してじゃなく、佐為が佐為として打てるから。でもさ、
さっき、おおさわぎになってるって・・・あれは嘘じゃないんだろ?」
「嘘でも誇張でもないよ」
「だからさ、もう・・・」
その傍らにsaiがいるかのように、進藤が右側を見る。いや、確か
にそこにいるんだ。少なくとも進藤の中では、saiが・・・。
「なら、ボクと打てばいい」
「えっ、塔矢と?」
「saiの正体を知ってるボクととなら、思う存分打つことができる。
それに、ボクもまた、あの素晴らしい打ち手と対局した・・・」
「だ・・・ダメだ!」
ボクが最後まで言い切るよりも早く、進藤が拳を握り締めて立ち上が
った。その勢いに僅かに飲まれながらも、ボクは問い返した。
「なぜ?」
「オレは、オレは!おまえとだけは、オレ自身の力で打ちたいんだ!」
でも、ボクには、打ち手としてのキミはいらない・・・。
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