身代わり 11


(11)
研究会に来た冴木の目に、一人碁盤のまえに座っているヒカルの横顔が映った。
ぶつぶつと独り言を宙に向かって言いながら、石を並べている。
その様子がなんだかほほえましかった。ヒカルが和谷とともにプロになったことを、冴木は
とても喜んでいた。研究会などがもっと活発になるであろう。楽しくなりそうだ。
冴木は声をかけようとして、ぎくりとした。
ヒカルは目をほそめ、あごを上に向けていた。
「んん……っ」
かすかに漏らしたその吐息に、冴木の背筋がふるえた。
ヒカルは唇をわずかに動かしながら、薄赤い舌の先を突き出している。
まるで誰かとキスしているように見える。
「ふ、んぅ」
さらに引き寄せる仕草をした。一瞬、自分のそでを引かれた気がした。
足がよろけた拍子に、戸が大きく音をたてた。ヒカルがすぐに振り返った。
冴木はぎこちなく笑顔を作った。
「進藤、早いじゃん」
「さ、冴木さん。おはようございます」
ヒカルは顔を赤らめた。今のを―――佐為とキスしているところを―――見られただろうか。
(ヘンに思われたら佐為のせいだかんなっ)
《ヒカルがしたいって言ったんでしょ。それに冴木さんには見えていませんよ》
(でもハタから見たら、オレ絶対キョドウフシンなヤツだよ。あ〜あ〜)
うつむいて石を片付けるヒカルの首筋を見て、また変な気持ちにさせられる。
自分のヒカルを見る目が、女性を見るそれと変わらないことに気付いた冴木は、目をそらす
ためにかばんから雑誌を取り出した。しかし内容は頭に入ってこない。
それどころか目のまえにヒカルの細い首筋が浮かんでは消える。そして先ほどのうっとりと
したヒカルの表情までがちらつきだした。
これでは思春期の恥ずかしい少年ではないか。
「それなに? マンガ?」
ひょいとヒカルが後ろから誌面をのぞき見る。息が頬に当たって、冴木は慌てた。
「なんだ、違うんだ。あ、この服カッコいい」
声が耳をくすぐる。落ち着かない。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル