失着点・龍界編 11
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殆ど聞き取れないくらいの小さな声で三谷が謝罪する。だが気持ちの半分には
「よけいな事をしようとするから」という非難が込められていた。
「…警察に行こう…、三谷…。」
そのヒカルの言葉に三谷が驚いたように目を向けて来た。
「…オレ達は…暴行されたんだ…警察に行こう…」
三谷はヒカルから離れた。だがすぐバランスを失って背後の閉じたシャッター
にふらふらともたれかかった。軋んだ軽い鉄の音が小さく夜の街に響く。
ヒカルが手を出そうとするが三谷はそれを払い除ける。
「…行くんならおまえ一人で行けよ。オレはご免だね。」
そして三谷は、ヒカルを嘲るように笑みを浮かべた。
「お前、棋士仲間と逃げ出したんだってな。急にプロの仕事が嫌になって」
ヒカルはハッとなった。
「ホント、結構いい加減な奴だよな、お前って。」
「…三谷…」
何も言い返す事は出来ない。そう受け取られても仕方ないのだ。
三谷は自分の体を必死に支えるようにして、そんなヒカルの前から無理にも
早足で足を引きずりながら立ち去ろうとした。
ヒカルは少し迷い、やはり決意してそんな三谷を追った。
「その体じゃ、無理だよ、三谷…」
信号機のない道路を足早に横切った三谷に続いて渡ろうとした。
次の瞬間、直進して来た車のヘッドライトがヒカルの体を包んだ。
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