スノウ・ライト 11


(11)
コン、と軽くドアを叩かれました。
「王子、何を取り乱しているんだい? またヒカル姫か?」
なれなれしく話しかけてくるのは王子の御付き、オガタでありました。
アキラ王子はオガタには心を許していましたので、その口調をとがめることはしません。
どころか丁寧な言葉遣いで答えます。
「ヒカル姫の行方が未だにつかめないのです」
「焦ることはない。じきに答えは出るさ。王国の情報員たちは優秀だ」
けれどアキラ王子の表情は沈んだままです。
その顔を見ながらオガタはヒカル姫のことを思いました。
アキラ王子をも怖じ気づかせるヒカル姫。オガタはとても興味を持っていました。
そして一度だけ迫ったことがあったのです。

『俺にもヤらせろ!』

そのときは逃げられてしまいましたが、オガタが酔っていたある夜、ヒカル姫から誘いを
かけてきました。それは忘れられない夜となりました。
ヒカル姫のテクは見事でした。
オガタは攻め立てるつもりが逆に攻め立てられていました。
酔っていなかったら、決してあんなヘタな突っ込みかたはしなかったのに、と悔やまれて
なりません。リベンジをしたいのですが、王子の目を盗むのは至難の技です。
もしあの時のことがばれたら、王子は血相を変えて、いったいどんな内容だったのかと
聞いてくるに違いありません。そして嫉妬の炎をたぎらせることになるに決まっています。
オガタはヒカル姫との一夜は、自分の胸の中だけに収めておこうと思いました。
まだ物思いにふけっているアキラ王子の肩に手をおきました。
「大丈夫だ、アキラ王子。姫は必ず貴方のものになる。何を疑う必要があるんだ。
 王子ほどヒカル姫を想っている人が他にいるかい?」
「いません。でも姫はつかまえたと思っても、すぐに手の中をすり抜けていくのです。
 生涯の相手はヒカル姫だとボクは思っていますが、姫はどうなんでしょう?」
いつもの王子らしくなく、その声には覇気がありません。



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