月明星稀 11
(11)
「……ごめん。」
小さな声と共に、ヒカルを抱きしめていた腕が緩む。
「済まなかった、無理強いをして。」
アキラの身体が離れていって、吹いた隙間風に、ヒカルは小さく身を震わせた。
縋るように見上げたヒカルに小さく微笑みかけて、アキラはすっと立ち上がった。
「もう、出かけなければ。」
そして小さく首を傾けてヒカルに問う。
「君は?」
「俺…」
今日は非番で、何の用事もない。
昨日は、もしもアキラに用事がないのなら、一日ここで碁でも打ちながらゆっくりと過ごそうと思って
いたのに。彼が用があると言うのならば仕方がない。帰ろうか。
そう思って腰を浮かせかけながら、次にヒカルは思いとどまって、もう一度アキラを見上げた。
「俺、ここで、待ってていい?」
え、と言うように、アキラが振り向いてヒカルを見た。
「考えたいんだ。」
すっと、アキラの顔が強張った気がした。
「考えて、ちゃんと答えを出したいから、だからここでおまえを待ってていい?」
僅かに目を見開いて、じっと見つめるアキラの視線を、ヒカルは真っ直ぐに見返す。
黒い瞳の奥で、何かが揺れ惑っているようにも見えたが、かれはふっと目を伏せ、静かな声で言った。
「…ありがとう。嬉しいよ。」
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