うたかた 11
(11)
部屋の中はとても静かだった。
雨が屋根をたたく湿った音と、時計が秒針を刻む乾いた音が、やけに大きく聞こえる。
ヒカルの涙もいつしか止まっていたが、離れるタイミングを逃して加賀の肩に頭を乗せたままだった。
「………」
「………」
沈黙に耐えかねて加賀が口を開きかけたとき────
「はっ…くしゅ!!」
ほぼ裸で布団から身体を出したままだったヒカルの盛大なくしゃみに一気に緊張が解けて、思わず笑うと、ヒカルもつられて赤い瞳のまま笑った。
「加賀」
「なんだ?」
さっきよりもずいぶん明るくなった表情で、ヒカルが加賀を呼んだ。
「オレ、今日加賀に会えてよかったよ。」
「…何言ってんだ、お前。」
照れ隠しに加賀が無愛想に言うと、ヒカルは微笑んで続けた。
「今朝からずっとへこんでたんだ、オレ。自分がすげー弱いってことに改めて気付いちゃってさ。」
少しはオトナになったと思ってたんだけど、と小さく呟いて、ヒカルは溜息をついた。
「でも久しぶりに加賀に会ったら…何て言ったらいいのかな。懐かしいのと嬉しいのと安心したのが一緒になって、寂しいのがちょっと小さくなった。」
「…そうか。」
「加賀ってやっぱりイイヤツだな!いつも助けてくれるし。」
無邪気に笑顔を向けるヒカルに、加賀は罪悪感を感じていた。
(────オレがお前に良くするのは、純粋な親切心からじゃねぇ…。)
たまらなかった。
ヒカルの前でイイヤツを演じていながら、頭の中でやましいことを考えている自分も、そんな自分をすっかり信じきっているヒカルの笑顔を見るのも。
もう、たまらなかった。
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