カルピス・パーティー 11 - 12


(11)
本当は、先に欲情したのは自分のほうだったと思う。
冷たい赤い唇の向こうにある、甘酸っぱく粘りつくような口内の感触を想像した時から
もう頭の中はいつアキラに触れようか、どうやってきっかけを作ろうかとそれだけで
パンクしそうだったのだ。
だが妙に頑固で、それでいて生真面目で単純で責任感の強いアキラには、オレはそう
したいからこうさせてくれと「お願い」するよりも、こうなったのはお前のせいだから
何とかしろと迫るほうが何十倍も効果的なことをヒカルは知っていた。
狡い?そうかもしれない。
だが初めてアキラの身体に自分の身体の一部を埋め込んだあの時から、ヒカルは何かと
アキラが自分に対して持っている負い目を振りかざしてアキラをいいように扱う癖が
ついてしまっていた。
アキラがヒカルに対して持っている運命的な負い目。
それによって強く誇り高く完璧なアキラが、いつでも自分の意のままになってくれる。
その事はヒカルにある種の愉悦と、自分とアキラは他人にはない特別な絆で繋がれている
という温かな安堵をもたらした。

案の定、憐れなくらい素直にアキラはヒカルのその言葉を重く受け止めたようだった。
「そうか・・・そうだな。すまない、進藤。帰るのは止そう」
「んっ、だろ?わかればいーんだよ。・・・こっち、来いよ」
手首を軽く引っ張って促すと、アキラは一瞬ためらってからヒカルと向き合う形で、
胡坐をかいた膝の上におずおずと跨ってきた。
ヒカルはさっそくそのシャツの下に両手を滑り込ませながら艶やかな唇に自らの唇を
押しつけ、舌を入れて掻き回した。
温かな口腔の中でカルピスの粘りが取れない二つの舌が甘酸っぱく絡み合い、
やがて溜まった唾液がこぽりと音を立てて二人の間から零れ落ちるのと同時に、
拭き取られなかったテーブルの上のカルピスがポタリと一滴フローリングの
白い水溜りの上に落ちた。


(12)
「・・・っ、・・・っ、ぅう・・・っ!」
衣服の下に潜り込んだヒカルの指が肌の上を辿るたびに、アキラは声を殺し
ビクビクと身を震わせた。そんなアキラの額に額をくっつけ合わせてヒカルが笑う。
「我慢してる?もっと声出せよ」
「駄目・・・だよ・・・いつも言っているだろう。お隣に聞こえたら・・・」
「隣いま留守だよ」
「何を、いい加減なことを言ってるんだキミは。・・・さっきTVの音がしたよ・・・」
「別に聞かせてやったっていいだろ」
「良くない」
「なら、隣に聞こえないように、オレだけに聞かせろよ。ホラ」
金色の髪を少し鬱陶しそうに振り払って、耳をアキラの口元に近づけてやる。
「・・・・・・」
「どーした?」
「・・・は、恥ずかしいよ。・・・そんな、待ち受けるようにされたら」
アキラは上気した顔に困ったような表情を浮かべたが、拒絶の言葉を紡ぐその唇は
先刻のキスの余韻に濡れてつやつやと赤く潤いを湛え、抗議するように眇められた瞳は
熱っぽく潤んでその縁をピンクに染めている。
ピンクや赤に彩られたその表情が、もうそれだけで甘い媚を含み男を誘っているように
見えた。
(んなエロい顔野放しにしとくほうが、よっぽど恥ずかしいぜ・・・)
じわじわと持ち上がってくる体熱を何とかやり過ごしながら、ヒカルは照れ隠しのように
アキラの前髪をちょっと引っ張って言った。アキラが痛っ、と声を上げる。
「・・・今さら何、ブリッコしてんだよ。オマエが恥ずかしいとか別にそんなのどーだって
いいんだよ。オレが聞きたいの。だから・・・聞かせろよな?」



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