少年王の愉しみ 11 - 12


(11)
「えーーーーっ!!」
少年王が素っ頓狂な叫び声をあげた。
「本当なのか、オガタン、キミは桑原相談役の愛人だったのか…!?」
「だ、誰がそんな事を…」
「だからさ、今回の見所の一つは二人の愛憎劇だって、もっぱらの評判だよ。」
「オ、オレが…」
敬愛するのは絶対の存在である前王、そして全身全霊を込めて仕えるのは我が少年王ただ一人のみ。
それを、あなたはわかった上で、そのような戯言に耳を貸すのか?
このオレが、あのようなサルジジイと…
「貴様ら…」
「わっ、怒った、怒った、」
「おおっ、まさしくこの顔だ!」
「デジカメ持ってくれば良かったな。」
「そこまでするか?それはひどすぎるよ、レッド、」
オガタンの怒りも、少年たちをはしゃがせるだけである。
これは、これではまるでそこらのガキと同じじゃないか。
許せん。こやつのせいで…。
高貴にして冷酷、非情でかつ絶対の美貌を誇った至高の存在…の筈だった我らが少年王が。
そこらへんのクソガキと同レベルになってオレを笑っているとは…!
やはり、棋院は敵だ。恐ろしい敵だ。
このイゴレッドを内部に送り込んで、我が帝國を内から崩そうという魂胆だったのだ。
だがどうすれば…既に少年王は完全にイゴレッドに取り込まれてしまっている。
オガタンの顔が険しく歪んだ。
「ご、ごめん、冗談だよ、オガタン…ほんの冗談なんだからさ…」
クスクス笑いをこらえ切れないままに、少年王が宥めるように言った。
その言い方がまた気に食わない。だが。ここで怒ればまたこいつ等を喜ばせるだけなのだ。
こらえ切れない怒りに肩を震わせながらもオガタンは、くるり、と二人の少年に背を向けた。
そしてあとはズンズンとドアに向かって歩いて行った。


(12)
バッシーン!!
大きな音を立てて乱暴にドアが閉められた。
「おお、コエー」
レッドが可笑しそうに肩をすくめた。
「オガタン、本気で怒っちゃったのかなあ。」
クスクス笑いながら少年王は言った。
そして、
「冗談なのにね。」
と、ニコッとレッドに笑いかけた。
かっ、可愛いっ!
その天使の笑みに、レッドは思わず、がしっと少年王の身体を抱きしめた。
そのまま少年王はレッドの頬に自分の頬を摺り寄せる。
「なあに?レッド。そんなに強く抱きしめられたら息が出来ないよ…」
そう言われて、レッドは益々彼を抱きしめる腕に力をこめるのであった。

オガタンをからかって遊ぶという愉しみかたもあったんだなあ。
うん、鞭を振るうだけが能じゃない。
まあ、執事には効かないだろうけど…あいつはやっぱり放置プレイが一番だからな。
しかし、オガタンにこんな弱みがあったとはね。これからも色々と愉しめそうだ。
愛しいイゴレッドの腕に抱かれ、クスクスと笑いながら、少年王はこんな事を考えていた。

そして自室に戻ってもまだ尚止まない怒りに唇を震わせるオガタンが、必死に対棋院強攻策を
練っている事など、新たに見出した愉しみに上機嫌の少年王は、勿論、知る由もない。

(終わり)



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