白と黒の宴4 11 - 12


(11)
高永夏と対戦出来るかもしれないという期待にもう他に何も思考に入らないという様子だった。
騒ぎの元になった自覚とか、社やアキラに対し一言わびを入れる気もこれっぽっちもないらしい。
ここまで来るともう社も怒りを通り越してしまった。
「ったく、アイツ…、なんや知らんが並みの気合いやないで。…まあええわ、アイツの
勢いにオレらもノッたろうやないか」
そんな社の言葉にアキラは少し救われた気がした。
この大会の行く末に、ヒカルが自分から遠く手の届かない存在になってしまうかのような
漠然とした不安を抱いていたが、自分だけが置いて行かれるわけにはいかない。
「…ああ!明日の中国戦、全力でいくぞ」
ヒカルが消えたドアを見据えてアキラはそう答えた。
そのまま自分の部屋に進み、ドアを開く。
ふと、アキラは社が自分のすぐ背後について来ているのに気付いた。
ドアを開けて振り返るアキラを、社は黙って見つめている。
「…何だ…?」
鼻先でドアを閉めるのもはばかられてアキラもそのまま黙って社を見つめる。
「…お前…」
半分怒っているような、下唇を突き出した表情で社は鋭い目でアキラを睨んでいる。
「?」とアキラが戸惑って困ったように社を見返す。
すると社も自分の顔つきに気付いて慌てたようにパンッと自分の頬を叩いた。


(12)
「…悪い、この顔はガキの頃からのクセや。」
『お前の顔見るだけで今打った手が良いか悪いかすぐわかるで。ポーカーフェイスで
打たなあかん』と碁会所の年長者に注意されて直させられたものだった。
ただ、強く矯正されるまでもなく周囲の者達に勝てるようになるうちに次第に
社の表情はあまり表に出なくなった。
焦りが表情に出るほど追い詰められる事がなくなったからだ。関心の持てない
相手の前では無表情だが、本来社はそれなりに喜怒哀楽の感情表現が豊かな人間だった。
特に今日は大人達に囲まれ、アキラへの感情を悟られないよう振る舞って居た部分はあった。
「何やったっけ、えーっと…」
改めてアキラと向き合って社は急に少し緊張し始めた。
「ああ、そうや」
話そうとした内容を思い出し、軽くせき払いして真顔になる。
「…なんやお前、ひどく動揺しとるみたいやな。」
「ボクが?」
「進藤の視界に他の奴が入り込んだからって…そうピリピリするな。」
アキラは驚いた表情になり、唇を結ぶとドアを閉めようとした。すると社も焦って
そのドアを片手で掴んで止めた。
「き、気イ悪うせんといてや。…別に怒らすつもりやないんや。ただ、オレ、…、」
少し口籠って社はアキラを見つめる。
「…本気で明日がんばるから、それだけ言いたかったんや…」



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