闇の傀儡師 11 - 12
(11)
湯の表面にはふわふわとした泡が浮かんでいるらしかった。強烈な香料の匂いが鼻につく。
バラか何か、そういった匂いだ。
浴槽の底にすぐに尻がついて、顔を縁に乗せられた状態になった。そしてスポンジのような物で
体が洗われていく。隅々まで丁寧に、あらゆる部分まで。
夢だ、とヒカルは唇を噛み締め、といっても口元すら動かなかったが奇妙な感触に耐えた。
髪まで洗われ、次いで激しくシャワーを浴びせられた。
「ぷわあっ!」
何も見えない、動けない状態でそうされるのは物凄い恐怖だった。暫く息が
出来ず、ヒカルは何とかシャワーを遮ろうと手を動かそうとした。
「ごめんごめん、勢いが強過ぎたね…」
ほとんど気を失いかけた時にようやくシャワーの勢いが弱くなり、ヒカルは激しくむせ返った。
そうしてぼんやりと周囲を眺めると、はっきりとはしないが光の中で巨大な何かが動くのを
感じた。
「…おや、何か見えるのかい?…少しずつシンクロ率が高まって来たようだね。」
男のその言葉の意味がヒカルには良く判らなかった。だが、少なくとも顔の表情が
思うように変えられるようにはなっていた。ただ手足はまだ重いままだった。
全身をタオルで包まれて水滴を丁寧に拭き取られると、ベッドに横たえられた。
「湯上がりの良い色合いになっているよ、ヒカルくん…」
そうして、男はヒカルの両腕を持ち上げると手首に何かをゆっくり巻き付け始めた。
ぼんやりとしか映らないヒカルの目に、それが赤い紐である事がわかった。
その瞬間ヒカルの頭に写真の事が浮かんだ。変な縄目模様に全身を縛られた人形。
「やー…っ」
ヒカルの口から悲鳴が漏れた。
「声も出せるようになったんだね。いいよ、ヒカルくん。もっと叫んでいいんだよ。」
(12)
男はそういって手際よくヒカルの全身に縄をかけて行く。
ところどころで容赦なく紐を引き絞られ、湯上がりのほのかにピンク色に上気した
柔らかい皮膚に食い込んで行く。
その度にヒカルは呻き、悲鳴をあげた。両手は頭の上の方でベッドのヘッドに縛り付けられ、
足を閉じて伸ばした状態でとにかくぐるぐると体のあちこちに紐が回されていく感じで、
最後に股間を通り、恐怖で萎えたヒカル自身を2本の紐で挟むようにして絞られる。
「く…くうっ…」
ただでさえ動けないのにさらに拘束され、人権を無視した行為にヒカルは怒りを覚え始めた。
「綺麗だよ、ヒカルくん。思った通り君の肌に赤い紐がよく似合う。」
男はそう言ってため息をつくと、ヒカルの体に手を伸ばして来た。
それを感じてヒカルは身を引こうとしたがどうにも出来なかった。
男の指が紐が食い込んだヒカルの体のあちこちを撫で回す。足の甲から順にひざ、ももへ、
そして腹部に。
強い嫌悪感でヒカルの全身の皮膚が泡立った。
局部の周囲を撫でるが肝心の場所には触れず、指は先に周囲を囲むよう縄がかかった
胸の突起のところに来た。
「ふんっ…!」
ヒカルの鼻からくぐもった吐息が漏れた。
指の腹が両の突起に軽く触れ、小さく円を描くようにして優しく愛撫する。
「うんっ…!んんっ!」
瞬時にヒカルの頬に赤みがさす。何の抵抗も拒絶も出来なくてそこは特に敏感になっていた。
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