交際 11 - 12
(11)
社は片っ端から、部屋を開けた。非常識なのは重々承知だ。
「……にしても無駄に広いな…この家…」
廊下を歩いていると、漸く灯りのついた部屋を見つけた。部屋の襖は開けられたままだ。
社は襖の陰に隠れて、中の様子をそっと窺った。
ヒカルがアキラに抱きついて、キスを待っていた。頭に血が昇った。自分の時はあんなに
嫌がっておきながら、アキラには自分からうっとりとねだっている。本当に邪魔してやろうか…。
だが、アキラはヒカルの望みをあっさり退けた。社には、アキラの気持ちが、さっぱり
わからなかった。自分なら、ヒカルにあんな風に恋われたら、百回だって、千回だって、
キスをするだろう。
ヒカルはアキラの態度に酷く傷ついた顔をした。そして、そのまま部屋を出ていった。
社の鼻先を掠めるように走って行く。自分の姿が、ヒカルの視界にまったく入っていなかった
ということに少しばかり傷ついたが、それだけ、彼のショックは大きかったのだろう。
ヒカルが可哀想だ。自分ならヒカルをもっと大切にする。割り込む余地は、まだあるかも
しれない……。
社はアキラに声をかけた。挑発めいた社の言葉に、アキラは眉をしかめた。不愉快で
あることを隠そうともしないあからさまなその態度に、社はますます挑戦的に振る舞った。
(12)
少し休憩した後、アキラの提案で囲碁勝ち抜き戦をする事になった。その頃にはヒカルの
機嫌も直っていた。楽しそうに碁を打つその姿に、アキラも社も安堵の表情を見せていた。
ヒカルは、対局をしているアキラと社を交互に見つめた。盤上に集中している二人は、
その視線に気付かない。
実のところ、ヒカルは本当に機嫌を直したわけではなかった。だけど、いつまでも些細なこと
(ヒカルにとっては全然些細ではないのだが)に、拘っていては、北斗杯でのチームの
士気にかかわると思ったから、表面上笑顔を見せただけだった。コレくらいの腹芸は、
ヒカルにだって出来るのだ。
社の悪ふざけに本気で怒ったり、アキラが自分の望み通りに動いてくれないからといって
拗ねたりするのはとても子供っぽいことのように思える。あの二人に比べると、自分は
かなり幼いのではないか……と。社は外見からして同い年には見えないし、アキラは
大人の間で育ったせいか、落ち着いていて、ヒカルよりずっと大人びてみえる。
『オレがガキっぽいから、塔矢も相手にしてくれネエのかな……』
だから、社だって自分をからかうのだろうか?膝の上に置いた手をギュッと握りしめた。
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