初めての体験 11 - 12
(11)
「いやだ─────────!!!」
桑原はゆっくりと動いた。ヒカルは揺すられながら涙を流し続けた。
自分は今、桑原に犯されている。
猿のように醜いこの老人に・・・。
しかし、この考えはヒカルを次第に陶酔させた。『醜い老人に犯される自分』それはヒカルを興奮させた。
桑原に盛られた薬のせいかもしれない。
「ああ────────っ!!」
ヒカルがはてても、桑原はまだうごめいていた。
桑原本因坊・・・伊達に年は食ってない!ろうかいな作戦に要注意!
ヒカルが手帳に書き込んだ文章を見て、
「なんだお前?本因坊と対局したのか?」
と、緒方が訊ねた。
「うん。今日時間があったから一局打ったんだけど・・・。手も足も出なかった。」
緒方が落ち込むヒカルの頭を撫でながら言った。
「食えないじーさんだからな。まあ落ち込むな。」
「すごくねっちこいんだぜ。」
ヒカルがふくれっ面をした。
緒方がヒカルを膝に乗せたとき甘えるようにヒカルが言った。
「それでね緒方さん。今日オレすごく疲れてるんだけどしなきゃだめ?」
「しょうのないやつだ。」
緒方はヒカルの頬を軽くつねって言った。
<終>
(12)
ヒカルのシステム手帳は、表紙が紺、背表紙が茶の革で出来ていて、
中学生の子供が持つには贅沢すぎる品だ。もちろん、ヒカルが自分で買った
わけではなく、プロ試験合格のお祝いとして貰った物だ。
「マスター、ホントにこれもらっていいの?」
ヒカルが目を輝かせて、聞いた。
「ああ。お祝いだからね。進藤君もこれからプロとしていろいろな仕事が
入るだろうから、こういう物も必要だと思ってね。」
マスターは、にこにこと人好きのする笑顔で言った。ヒカルは和谷と伊角に
連れてこられて以来、たびたび、この碁会所に通っていた。
大人慣れしていないヒカルは、初めこそ殊勝にしていたが、時間がたつにつれ、
いつもの闊達なヒカルに戻っていった。明るくて、人懐っこいヒカルは、
今では、この碁会所のアイドル的な存在だ。マスター自身もヒカルが可愛くて
しょうがなかった。
「ホントにありがとう!」
ヒカルは礼を言った。嬉しそうに頬を紅潮させて、何度もその手帳を開いたり、
閉じたりして見せた。ヒカルの嬉しそうな顔を見て、マスターもますます笑顔に
なった。が、ヒカルが急に沈んだ顔を見せた。
「どうしたんだい?何か気に入らないのかい?」
マスターが不思議そうに訊ねた。ヒカルは慌てて首を振って言った。
「ううん!ちがうよ!・・・オレ・・・お返し何にもできねぇなあと思って・・・」
「ハハハ。何だ。お返しなんていらないんだよ。」
マスターはヒカルの頭を撫でながら、言った。
「プロとして、がんばってくれれば、それでいいんだ。」
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