○○アタリ道場○○ 11 - 13
(11)
兄貴は、おかっぱに踏まれた時「げふっ!」とガマ蛙が鳴くような声を
あげた。
「さすがは母は強しのお袋<pワーなりっ・・・・・」
兄貴はゴフッと少量の吐血をし、ガクンと床に顔を落とした。
「ちょっと緒方さん! お話は後で伺いますから、そんなところで
寝てないで、とりあえず居間で待っていてください!!」
おかっぱは、目をカァッ──!と見開いて、どエライ剣幕で怒鳴る。
そして、おかっぱは、目で捉える事の出来ない速さで、まな板上の大根を
タタタッと職人技のように みな同じ大きさで切っていく。
おかっぱの体から立ち昇る異様なお袋さん<pワーに圧倒されて、
兄貴は渋々 台所を後にした。
〜本日の塔矢邸の夕食〜
・サバの煮付け
・里芋の煮物(上にゆずの皮を散らしてある)
・大根とワカメの味噌汁(赤・白味噌の2種類使用)
・ほうれん草のおひたし(海苔醤油和え)
・ササニシキのご飯(新潟の農家と個人ルートで入手)
・きゅうりと人参のぬか漬け(美味しんぼにも登場しそうな一品)
・愛媛のミカン
・・・お題目・お袋おかっぱ、まだ続く。
(12)
兄貴が台所から逃げるように退散してから約1時間以内に夕食が
出来上がった。
まるで絵に描いたようなバランス良い見事な純和風の典型メニューに
兄貴は目を見張る。
「コレ、全部キミが作ったのかい?」
「ハイ、料理は昔から お母さんに少し仕込まれてました。
一般的な家事は出来るようにがウチの家訓ですから」
おかっぱは、客用茶碗(大正時代の骨董食器・金額¥40万ほど)に
ご飯を盛って 兄貴に渡す。
「緒方さん、どうぞ召し上がってください」
「ああ・・・、では頂こう」
おかっぱの作った食事の味は、なかなかのものだった。
味噌汁も化学調味料ではなく、きちんと自然素材からダシを取っていて
とても美味だ。
「・・・・・・ところでアキラくん、割烹着と三角巾 取らないのか?」
「ご飯を食べたら、イロイロとしなくちゃいけないことがあるので、
ボクのことは お構いなく」
そうは言われても、眼前にお袋おかっぱがいては食が進まない。
それどころか腹の底から笑いが込み上げてきて、つい兄貴は噴出した。
その途端、おかっぱの目がキラリーンと光った。いつのまにか右手には
ハリセンを握り締め、兄貴の頭上に雷が落下するが如く、スパパーンンンン
と一発しばく。
「食事をするときは、行儀良くしてくださいっ!」
おかっぱは、兄貴にド迫力の般若顔で注意する。
「ハ、ハイ。スミマセン・・・・・・」
(13)
兄貴は頭に出来た大きなタンコブを擦りながら、黙々と食事をする。
「あれ緒方さん、スーツの右袖のボタンが取れかかってますよ」
おかっぱは、キュウリのぬか漬けを口に入れ、ボリボリと音をたてながら
言う。
「あっ、本当だ。困ったな」
「ボク針仕事、結構 得意なんですよ。スーツ脱いでください、すぐ縫い
ますから」
「いや、いい。後で自分で繕うつもりだ」
「遠慮なんかしないでください」
「そ、そうか。ならば お願いしようか」
そこまで言うなら頼もうかと兄貴は おかっぱにスーツの上着を手渡す。
おかっぱは早速 針に糸を通してチクチクと器用に縫い始めた。
兄貴は その姿を目にした時、フッとある映像が一瞬脳裏によぎった。
兄貴の脳裏をよぎった その映像。
それは、おかっぱの周りは真っ暗な闇夜が広がり、雪が しんしんと
降っている。
針仕事をするおかっぱの頭上からスポットライトが照らされ、吹雪の中に
お袋おかっぱの姿が浮かび上がる。(ナゼか割烹着は、ツギハギだらけ)
「ふう〜」と、おかっぱは息を吐いて両肩をトントンと叩き、
ゴホゴホゲホホホと激しく咳き込む。
「さて、もう一仕事しようかなあ・・・・・」と、おかっぱは しみじみ呟く。
(燈黷ウんが〜夜なべ〜をして、
てぶく〜ろ編んでくれたあぁぁあああ〜♪)←バックミュージック
昔々の古き良き時代・お袋さんの姿が そこにあり、兄貴の体は感動に
ブルブルと小刻みに震えた。そして目に熱いは、モノが一気に込み上げ、
一筋の涙が兄貴の頬を伝った。
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