少年王アキラ? 11 - 13


(11)
「ねぇオガタン。眠くなっちゃった。ベッドまで連れてって。ハマグリゴイシはもう
帰っていいよ」
 ハマグリゴイシはその優しい目に哀れみを浮かべてオガタンを一瞥すると、ケケと
一声鳴いて軽やかなステップであっという間にそこからいなくなった。
「あのウマ…歯を見せて笑いやがった……。クソ、そんなにオレが滑稽か?」
「ハマグリゴイシはとても頭がいいから、おかしな時には笑うんだよ。…あふ……」
 アキラ王は大きな欠伸をし、両目を閉じる。先程飛び散った彼のタンパクエキスは、
彼の身体のどこをも汚していなかった。
「クソ、幸せそうな顔して寝やがって。イカ臭ぇのはオレだけかよ……」
 自分の部屋と徒歩で15歩しか離れていない少年王の寝室を目指して歩きながら、
日照り続きのオガタンはなんとなく泣きたくなってしまった。


(12)
「おおおアキラ王、どこに行ってらっしゃったんですか…!」
 長身のオガタンがカツカツと靴音を響かせてやってくると、可憐な執事・座間は
さめざめと泣きながら少年王に駆け寄った。
「ぐっすりと寝ておられるから、ベッドを整えてやってくれ」
「わかりました。……何です? このとても懐かしい香り…」 
 執事・座間は匂いの元を探して鼻をヒクヒクとさせる。やがてその源がオガタン
の端正な顔にこびりついた白いものだということに気づき、また前屈みになると
レェスのハンケチをカリと噛み締めた。
「私がもうその匂いの元を出せないことを知っての嫌がらせ!?」
 この執事に嫌がらせしてなんの得があろうか。少年王をベッドの上にそっと降ろ
し、パジャマのボタンをはめてやりながらオガタンは呆れた。
「いや、王子にそんなことを考える余裕はないだろう。彼の頭の中は表彰台とシャ
ンパンとレッドとキスのことで一杯だ」
 枕元に揃えて貼り付けられた2枚の報告書を指で弾き、オガタンは『それよりも』
と座間を見すえた。
「おまえはオレに1票いれただろうな?」
 可憐な執事はきゅっと唇を噛み締めて、レェスのハンカチで額の汗を拭った。
「すみません。私としたことが、すっかり失念しておりまして…ああん?」
 タップダンスもできるようなオガタンの固い靴が、ふくよかな執事の腹に食い込
む。


(13)
「…もし、オレが1位で予選を通過していたらいいが、もし1票差で2位だったり
したら、おまえには、明日から1ヶ月間の休暇を取らせる」
 オガタンは可憐に身体をくねらせる座間の腹をグイグイ踏みつけながら、冷徹に
宣告した。顔にこびりついたものがガピガピして肌を引っ張るのも彼の苛立ちに拍
車をかける。
「ああ…この痛み…(・∀・)イイ!! ……一ヶ月も」
「ああ。一ヶ月の放置プレイだ。……もっとも、その間に誰の頭の中にもおまえが
棲んでないかもしれんがな」
 それは座間の最も危惧することだった。
 腹を靴の裏でマッサージされながら、執事はオガタンがダントツ一位で敗者復活
を遂げることを本気で祈った。
 だが、神様はあくまでもイケズだった。
 その願いはついぞ叶えられることはなかったのである。

         お?わ?り?



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