Shangri-La第2章 11 - 13


(11)
緒方が新しいビールを片手にソファに座ると、
アキラはその片膝の上によじ登り、
ふわん、ふわんと頬や唇を緒方に押し付け出した。
そういえば、先生に怒られた後に寝かしつける時は
いつもこんな風にしてきたな…。
余程人肌に飢えていたのだろうか。
しっかりしているとはいえ、やはりまだほんの子供か…。
そんなアキラの頭をそっと撫でてやりながら、沈黙を破った。

「淋しいなら、進藤を呼べばいいじゃないか?良く引き込んでるんだろう?」
アキラは緒方の首筋に顔を埋めて動かなくなった。
「進藤は……今は忙しいんです」
自分の発したその言葉に、ずきん、と痛みが走った気がして
アキラは顔を歪め、緒方にその顔を見られていないことに安堵した。
「あぁ、聞いたよ。拝金主義に毒されたらしいな」
「ち、違います!今、一時的にお金が必要な事情があるだけで…」
「ふぅん…、だったら、お前が金を出せばいいじゃないか」


(12)
「…どういう意味ですか」
「進藤の時間を、お前が買えばいいだろう?そうすればお前だって、
 昔の男の部屋に上がり込む必要もなくなるし、
 進藤は時間を有意義に使って稼げる、全て丸く収まるじゃないか」
全く頭にない発想を展開され、アキラは一瞬考え込んでいた。
「それは…それは、ボクに、進藤と援交しろと?」
アキラの全てが強張っている。
まずもって、アキラの常識にない考えであることは間違いない。
「あぁ、最近の若い奴はそんな言葉を使うんだったかな…」
「いい加減にして下さい!ボクは進藤とはそういう関係ではありません!」
アキラは勢い良く緒方から身体を離した。
「もう寝ます!おやすみなさいっ!」
――こんなに怒気を含んだ就寝の挨拶があるだろうか?
緒方は苦笑いを浮かべて、おやすみ、と一言だけ返した。
アキラの姿がドアの向こうに消えた途端に
こみ上げる笑いを押えることが出来なくなり、
緒方は暫く喉奥で笑い続けた。


(13)
「わぁ……」
怒りに任せて寝室のドアを勢い良く開けたアキラだったが、
ベッドを見て思わず感嘆の溜息を漏らした。
シーツも、揃いの布団カバーも、ここに良く来ていた頃のお気に入りだった。
おねぇさん達の誰かが持ち込んだ、少し良いものらしいが
緒方は興味がなく無造作に扱い、使っていた。
本当は緒方が朝、シーツを替えたときに、
リネン棚の一番上にあった物を使っただけなのだが
それに気づかないアキラは、ただ嬉しく思った。
(緒方さん、もしかしてまだ覚えててくれたのかな……)

アキラはそっとドアを閉めると、バスローブを脱ぎ捨て
そのままベッドに潜り込んだ。
全身で感じるその肌触りは変わることなく気持ち良くて
あっという間にアキラは眠りについた。



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