sai包囲網・中一の夏編 11 - 13
(11)
初心者と熟練者、拙い一手と巧みな石運び。あまりにもそのギャップ
が激し過ぎる進藤。緒方さんは神か化け物かと言っていたけれど、千年
前の碁打ちの幽霊が彼の中に潜んでいるきなら、確かにその通りだ。
「オレの話はこれで全部だよ。信じるも信じないも、勝手だけどな」
それでも、本当のことを話したんだから、saiの秘密を黙っていて
くれよと、進藤は言った。
「もう、saiに打たせる気はないの?」
「佐為にはこれからもネットで打たせてやるつもりだったんだ。ネット
碁ならオレを通してじゃなく、佐為が佐為として打てるから。でもさ、
さっき、おおさわぎになってるって・・・あれは嘘じゃないんだろ?」
「嘘でも誇張でもないよ」
「だからさ、もう・・・」
その傍らにsaiがいるかのように、進藤が右側を見る。いや、確か
にそこにいるんだ。少なくとも進藤の中では、saiが・・・。
「なら、ボクと打てばいい」
「えっ、塔矢と?」
「saiの正体を知ってるボクととなら、思う存分打つことができる。
それに、ボクもまた、あの素晴らしい打ち手と対局した・・・」
「だ・・・ダメだ!」
ボクが最後まで言い切るよりも早く、進藤が拳を握り締めて立ち上が
った。その勢いに僅かに飲まれながらも、ボクは問い返した。
「なぜ?」
「オレは、オレは!おまえとだけは、オレ自身の力で打ちたいんだ!」
でも、ボクには、打ち手としてのキミはいらない・・・。
(12)
「な、なにするんだよ、塔矢!」
テーブルを越え、無理矢理に進藤の身体をソファに押しつける。その
拍子に、灰皿やペットボトルが薙ぎ落とされたが、かまうことはない。
「キミがsaiと打たせてくれるまで悠長に待っていられるほど、ボク
も気は長くない。打ちたくないと言うのなら、打ちたくなるようにし向
けるまでだ」
「なんだよ。オレを殴ってでも、saiに打たせる気かよ!」
卑怯だぞ!そうがなり立てる進藤は、こうやって近くで見ると、尚更
小柄で頼りがない。ボクですら、こんなに簡単に動きを封じてしまえる
ほどに。
「殴るなんて、バカなことはしないよ」
「じゃあ、この手を離せよ」
「離したら、みすみすキミを逃がすだけなのに?」
こんな機会はきっともう二度とない。諦め悪く暴れる進藤に、先程、
隠しておいたセロテープで、後ろに回した両方の親指を一まとめにする
ようにぐるぐる巻きにした。
「うわっ、なんだよ、これ」
「くすっ、けっこう丈夫なんだよ、セロテープって」
念には念を入れて、手首のところにてもテープを巻いておく。ぐるり
と反転させた進藤の身体を、ソファの上に突き放した。
「おまえ、こんなこと、どういうつもりなんだよ!
「理由は簡単だよ。saiといつでも好きなときに打つために、キミを
ボクのものにすればいい・・・」
そうだろ?座った姿勢のまま進藤の足下に座り、ハーフパンツの脚に
触れる。びくっと身体を引いた進藤が、怯えたような目でボクを見下ろ
して来た。
「と、塔矢、お前のものって・・・?」
(13)
「どんな人間もね、痛みより快感に弱いそうだよ。試してみる?」
「試すって、何を」
「キミが、ボクなしではいられないように、キミに抱かれる快感を教え
てあげるよ」
そうすれば、キミは何でもボクの言うとおりにするしかないだろう?
一瞬、呆気に取られていた進藤だったけれど、意味だけは通じたのか、
「バッ、バカ!オ、オレは男だぞ!?」
羞恥で真っ赤になりながらも、お決まりの文句を返して来る。
「男同士で、そんなことができたら、おまえ、変態だからな!」
「安心していいよ。ボクもまだやったことはないから」
にっこりと下から微笑んで、進藤の頬に手を伸ばす。思った以上に柔
らかい感触。そのまま唇にも触れ、肩先から胸元に指を落とした途端、
進藤は暴れ出した。
「触るんな、バカ野郎!」
「うるさいよ」
ボクを罵倒する口を塞ごうと、唇を合わせ、進藤の意識がそちらに向
いた隙に、片手でハーフパンツのボタンを外し、ファスナーを下ろす。
ぎょっとしたように見開らかれた大きな目。そのまま引きずり下ろした
パンツとスパッツに、片方だけ靴下も脱げ、何も身につけていない素足
が現れた。進藤は、足の指も小さく柔らかそうだった。
足の甲を掌で包み込むように撫で、指で足の裏を探る。身体を動かす
のが得意そうな進藤らしいしっかりとした土踏まず。指の間を指先でな
ぞっても、進藤は表情を固めたまま動かない。
ボクは迷わず、その細くて小さな親指を口に含んだ。
「ひっ!」
思わなかった感触に、引かれそうになった足首をもう一度捕まえて、
指とその間を舐める。その度にびくっびくっと動く進藤の反応が楽しく
て、何度もそれを繰り返した。
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