誕生歌はジャイアン・リサイタルで(仮題) 11 - 13


(11)
「もうだめぽ…これだけやっても効果がないなんて…進藤、すまない…」
「死亡時刻を言ってもいいか〜?アキラぁ」
碁会所はパーティムードから一転、お葬式ムードへと変わっていた。
アキラは泣きながらヒカルの体を碁盤を繋いで作った寝台の上に横たえた。
元名人が沈痛な面持ちで、アキラを慰めるように優しく声をかける。
「アキラ…私が進藤君のために、鎮魂歌を歌ってあげよう…」
「お、お父さん…ありがとうございます…きっと、進藤も喜ぶと思います…」
緒方と芦原と市河は慌てて耳栓をし始める、が、間に合わなかった。


『   ホ   ゲ 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜   」


最早、もとの歌詞が何だったのか分からない。人間が聴覚できる範囲の振動数で最大の、
不快な音の周波数が碁会所全体に響き渡った。
アキラ以外の人間は皆一様に耳を塞ぎ、耐えきれず耳から血を流しながら気絶する者も大勢いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」
碁盤の寝台に寝かされたヒカルも、その異常な音波地獄に飛びあがって耳を塞いだ。
「進藤!お父さん、進藤が…進藤が起きました!進藤、良かった!」
アキラは涙を流しながらヒカルに抱きついた。元名人も歌を止め、満足そうに何度も頷く。
「愛の奇蹟だ…よかったな、アキラ」
突っ込みの緒方は、耳血を流しながら床に横たわったままだ。


(12)
グロテスクな、そう…例えるならジャイアン・リサイタルを生で聞いたような音波にヒカルが
覚醒すると、泣きながら自分の名前を呼ぶオカッパの天使と、耳血を流しながら
死屍累々と横たわるじじいの天使達の阿鼻叫喚の地獄絵図が目の前に飛びこんできた。
「さ、佐為ー!オレ、生き返れなかったみたいー!しかも地獄へ来ちまったよー!!」
「し、進藤、どうしたんだ!?まさかまだ頭にエーテルが残っているのか!?」
「離せ、離せー!オレを佐為の所へ帰してくれよ!うわーん、佐為!佐為助けてー!」
泣きながら暴れるヒカルにどう対処したらいいのか分からなくなったアキラは、父を呼んだ。
「お父さん、進藤に子守唄を歌ってあげてください!きっと落ちつくと思います!」
「分かった」
とんでもないことを言い出した親子を後ろから羽交い締めにし、エーテルを嗅がせたのは、
耳から血を噴き出しながらも何とか起きあがった緒方であった。
「お、緒方さん…なのか?その格好は一体…天使?」
「進藤、もう帰って良いぞ…」


(13)
ヒカルが碁会所の外に出ると、もう夕日が沈み始めていた。
「今日は変な1日だったな…でも、佐為に会えたから、いいか…」
「何がいいんだよ?進藤」
後ろからヒカルに声をかけて来たのは、スーツ姿の越智だった。
「わっ!な、なんだー越智かよ、ビックリさせるなよー」
「勝手にビックリしてるのはそっちだろ」
「それより何?その格好…何処か行ってきたのか?」
「ああ、この近くで指導碁があってその帰り。進藤は…どうせ遊んでたんだろ?」
遊んでたわけじゃねー!と小一時間抗議したかったヒカルだが、何と説明すれば良いのかわからず、
不機嫌に口をつぐんだ。そんなヒカルに、越智がさも今気付いたかのような顔で話しかける。
「ところで、今日は進藤の誕生日じゃなかったっけ?」
「え?越智、覚えててくれたんだ?」
「フン、履歴書に書いてあったのを思い出しただけだよ」
照れたように眼鏡をいじる越智を、ヒカルは笑いながら見下ろした。
「じゃあ、夕飯奢ってくれよ!な、越智、お前お金持ちだし、いいだろ?」
「フーン、別に構わないけど…何食べるんだ?」
「勿論、ラーメンに決まってるじゃん!」
並んで歩くヒカルと越智の影が、夕日に照らされて延びていた。

その頃、ヒカルの家では、ケーキと花火セットを持ったあかりと祖父母、そして
ペットボトルを持った和谷と消防士の格好をした伊角がドアチャイムを押していた。

<おわり>



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