隙間 11 - 14
(11)
「よくできた、そら…ご褒美だ」
ベルトを外し、ズボンの前をあけると、緒方は勃起した巨根をそのまま
勢い良くヒカルのアヌスに突っ込んだ。
「ヒッ……アッ、アアッ―――――……!!」
同時にヒカルは二度目の絶頂を迎え、ザーメンで床を汚した。
「早いな…もうイッったのか?まったく、堪え性の無いヤツだ」
「ハッ…は、あぁ…だって、だってぇ…アアッ!」
緒方は唐突に腰を使い始める。後ろから手を回されて、イッたばかりで敏感になっている
ペニスを弄られる。息も絶え絶えになりながらも、ヒカルの嬌声は止まらない。
後ろからはジェルとアルコールと緒方の先走り汁が混ざり合った液体がグチュグチュと音を立てて、
聴覚からもヒカルを犯した。掻き回され、抉られるようにしながら乱暴に腰を打ちつけられた。
「あっ、あっ…んぅ……アァ、いっ…イイよぉ…キモチ、いい―……」
キュッ、っと中の緒方を締め付ける。その心地よさに思わず眉をしかめつつも、
背後から抱きしめるようにしながら、緒方はヒカルの耳元で優しく囁いた。
「いいこだ…正直な子は大好きだよ、進藤……」
(12)
「・・・っ、す・・・き・・・?」
その言葉は、ヒカルの心を大きく揺さぶった。
「好き」だと、ずっと前にそう言ってくれた人がいた。
―――ねぇヒカル、私はヒカルのこと、大好きですよ…
そう言ってくれた佐為は、もういない。もう一度言って欲しかったのに、もう会えない。
この心の隙間を、どう埋めていったら良い?どんなに緒方さんに激しく抱かれても、
やっぱりダメなんだよ…まだ足りないのかな?もっともっと、死んじゃうくらい、
こんな事続けなくちゃダメ?それとも、この隙間は永遠に無くならないの…?
…どうしよう、どうしよう佐為。
ヒカルの瞳に新たな涙が生まれて、頬を濡らしていく。
ヒカルの様子に気付いた緒方が動きを止めた。後頭部をつかまれて無理やり
横を向かされ、顔を覗き込まれる。
「何を考えていた?進藤…言ってみろ」
「…っねが…も、い…っ、かい……って…」
泣きながら喉を詰まらせ、何かを懇願するヒカル。
「………なに?」
「も…う、いっかい、いって……すき…って、言って…」
嘘でも良いから、緒方さん。消え入りそうな声で、ヒカルはそう言ったのだ。
(13)
緒方が自分の事を好きではない事など、ヒカルが一番知っていた。
だって緒方は一度だってヒカルにキスしてくれた事は無かった。
ただ体を繋ぐだけ…SEXだけを教えてくれた人だった。
ヒカルも緒方が好きで寝た訳ではない、ただ寂しかったから、佐為がいない隙間を
誰かで埋めて欲しかったに過ぎない。一人になるのが怖かったのだ。
思春期をずっと他者と一緒に過ごしてきたヒカルは、孤独に極端に弱くなっていた。
一人で眠っていた、佐為と出会う以前の自分が思い出せない、誰かと一緒にいない
自分など、考えられなかった。誰でも良い、そばにいて欲しい。
そして寂しさを紛らわす方法を教えてくれたのが緒方だった。それだけなのだ。
SEXするだけの関係…充分に分かっているはずなのに、「好き」と言う単語に
大きく動揺する自分をヒカルは自覚した。そして分かってしまった。
―――オレ、誰かに好きって言って欲しかっただけなんだ
誰かに愛して欲しかった、佐為がそうしてくれたように。身代わりが欲しかったのだ。
体を繋ぐより、言葉だけでこんなに嬉しくなる自分がいる。その認識はヒカルを驚愕させた。
(14)
緒方に対して失礼な動機で近付いた事をヒカルは自覚している。
利用しているのだ、佐為の抜けた隙間を埋めるために。
そして、緒方はヒカルが気付くよりもっとずっと前からそれを知っていた。
ヒカルがただ単に誰かのぬくもりを恋しがっていた事など、お見通しだった。
一人寝を怖がる幼児のようなものだ…だからこそ、そんな頼りなさげな少年を
いじらしく思うことも緒方にはあるのだった。
動きを再開しながら、熱い吐息混じりの声でヒカルに囁く。
「フッ…嘘でもいいのか?」
「あ、あっ…ン、いい…いいからぁ…おね、が…おがたさ…ん、アッ…んぅ」
ヒカルも、そして緒方も限界に近かった。一層激しく腰を使うと、ヒカルは悲鳴を上げて
頭を振った。前立腺を更に攻め立てられて、前後不覚のような感覚に陥った。
緒方も息を荒げながら昇りつめようとより集中した動きになる。
「アッ、あんっ…やぁ、イク、イっちゃうよぉ…おがたさぁ…」
「”好きだ”」
「すっ………アッ!あ…」
「”大好き”だよ…進藤」
目も眩むような快感と、欲しかった言葉…。
「ヒッ…ああっ、アッ―――……!!」
甲高い嬌声と共にヒカルは今日何度目かの絶頂を迎えた。
瞬間のアヌスの強い締め付けで、緒方もヒカルの奥に飛沫を放つ。
「ハッ……、アァ、……ン……アアッ……、ッ…」
緒方の断続的な射精に合わせて弱弱しく反応するヒカル。
目は虚ろで、殆ど焦点を結んでいなかった。
緒方がゆっくりとペニスを引き抜くと、もうすでにヒカルは意識を失っていた。
後始末をしてやって、ベッドに運んで寝かせてやる。
明るい前髪を梳いてやると額が覗いて、一層少年を幼く見せた。
緒方は自分が少年の孤独を埋めるものではないと分かっていた。
そのつもりもない。だがこんな行為を教えてしまった負い目もある、
せめて”次の人”をヒカルが見つけるまで、付き合ってやるのも悪くない。
ヒカルに布団をかけてやり、その額にキスをひとつしてやると、
緒方はシャワーを浴びるべく、風呂場へと足を向けた。 <終>
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