ほしいまま-欲儘- 11 - 14


(11)
オレの上の塔矢は肩で激しく息をしていた。
汗で、黒髪が額や頬に張り付いている。
うん、いいな、色っぽいよお前。
塔矢が、キスを仕掛けてきた。
さっきの噛みつきあいの名残みたいな乱暴なキスだ。
歯と歯がぶつかり合う勢いで、お互いの口の中をさぐり、自分の方こそより多く
相手を奪おうとしている。そんな感じのキスだ。
オレがそのキス合戦に夢中になってるうちに、塔矢が激しく
オレの体の中を突き始めた。
オレのからだがその瞬間の快楽にエビぞって、重ねていた口が外れた。
君のお望み通りに。
塔矢のそんな声が聞こえた気がしたが、なんだか頭のなかに白い幕がかかっちまったみたいだ。
オレの中を嵐の勢いで征服していく塔矢に、それでもオレは足りず、その腰に足をからめた。


(12)
塔矢は、両方の手をオレの指にからませ、そのままオレの手を床に縫い付けながら、
腰を揺すってる。
だからもっと塔矢を近くに引き寄せるために、背中や首に手を回そうにもできなかった。
揺すられる度、口から漏れるオレの声はもうほとんど悲鳴に近いけれど。
畜生。まだ足りないと思うオレは、相当に貪欲だ。
塔矢、もっと近くに来いよ。もっともっと、溶けあって、一つになって
お互いの皮膚の境目もわかんなくなるくらい。
オレ達が別々の人間なんだって忘れてしまうぐらいになれたらいい。
塔矢がさらに、腰ごと押し付けるようにして突き入れてきた。
打ち付けるたび、塔矢の袋の感触が、しりにあたった。
その塔矢をさらに奥に迎え入れたくて、オレはあいつの腰にからめていた足をほどき、
軽く折り曲げたまま、腿を大きく広げた。


(13)
塔矢の熱が、更に腹の奥の方まで侵入してくる。
ああ、熱い。熱いよ塔矢。
お前がオレん中にいるよ。
中から溶ける。溶けちまう。
突然塔矢が押さえていたオレの手を離した。
その手がオレの背中に回り、強く抱きしめられた。
あそこだけじゃない、塔矢の体も燃えるように熱い。
中からも外からも塔矢の熱に侵食されて、頭がおかしくなりそうだ。
溶かされて自分がどこかにいなくなる。
いや、いなくなるんじゃない。オレは塔矢に、塔矢はオレになるんだ。
この時だけは。
オレも激しく体をゆさぶり続ける塔矢の頭に腕を回してきつく抱きしめた。
臨界点を超えた塔矢の熱が、溶岩みたいな熱い奔流になって、
オレの中に放たれたのがわかった。
そして、オレも、ドロドロに溶けたオレ自身の中身を外に向けて放出した。


(14)


「あーあ。またやっちゃったなぁ」
「・・・・・・・」
自分達はいつもそうだ。
自分達同志の手合はもちろん、他人の…とくに高段者の緊迫した手合を見ると、
むやみと興奮してしまい、歯止めが効かなくなる。
ちなみに昨日見ていたのは天元戦の一局だった。
碁のイベントで、地方のホテルに泊まっていた二人は、ロビーのテレビで
衛星中継されるそのようすを食い入るようにみてしまった。
スリリングな、いい一局だった。
で、あの始末だ。

自分達もあんな碁が打ちたい。
あんな風に他のことなんかなにもかも忘れる碁が打ちたい。
そう思うと体が熱くなる。
二人揃っているときはなおさらだ。
その気になれば、そういう棋譜を生み出せる相手が近くにいるのだ。
異様に興奮する。
相手と対局したくなる。
相手が欲しくなる。
自分以外は見るなといいたくなる。
そして、生まれるのは、恋でも愛でもない、純粋な肉欲だ。

「まあ、とにかく、仲居さんが来るまでになんとかしよう」
ヒカルの割に前向きな言葉にアキラは頷いて、二人の放ったものでドロドロの布団を
ティッシュと手ぬぐいで、汚れが目立たないようにするために拭き始めた。

(おわりーー)



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