Trinity 11 - 15


(11)
唇はバラ色に燃え立つ肌を下り、小さな突起を含んだ。固く尖った乳首を舐め、舌の上で
転がす。左手はもう一方の固まりを撫で、押しつぶす。
「…んっ、あぁっ…、あっ……」
アキラの口から絶え間ない喘ぎが洩れてきた。その体はさらにその続きを促すように揺れ
ている。一度到達した後で、快感に素直になっているのだろうか。社は目をみはる思いが
した。同時に、自分の血がどんどん熱く滾っていくのがわかった。

アキラの名前はずっと前から知っていた。囲碁雑誌に登場する同い年の棋士。将来、タイ
トルホルダーの地位が確実視されている少年。囲碁界のサラブレッド。アキラの写真を目
にする度に、いつかコイツと対局するんだと心に刻んだ。写真に映る、凛とした、静かな
面立ちを苦悶に歪ませてやりたかった。
ふと、コイツを抱いたらどんな顔をするだろうと思った。何も知らないお坊ちゃんが苦痛
に顔をしかめる姿も見物だと興味がわいた。本当は、優しげな整った顔立ちの中の鋭い眼
差しに心惹かれたのかもしれない。自信に満ちた姿を粉々に砕き、許しを乞う姿が見たか
った。

だが、目の前にいるその少年は自分の愛撫に、苦悶どころか歓喜の表情を見せている。囲
碁だけかと思っていたコイツにもいろんなことがあるんだと驚かされた。
あまりに早く高まらないよう、愛撫を止めると、社は腰掛けていたベッドの縁からアキラ
の背後に回った。


(12)
折り重なるようにベッドに倒れ伏すと、社はアキラの襟足にくちづけた。わずかに汗ばん
だ背中を余すところなくくちづけ、撫でさする。強い刺激を与えぬよう、あえて前には手
を出さなかった。アキラの肌はキメ細かく滑らかで、社の掌に吸いついてくる。いつしか
アキラからかすかに甘い、花のような香りがしていることに気づいた。
その香りを知っているような気がした。不思議だった。しばらくして、母が手入れしてい
る白い花の香りだとわかった。なんという名前だったか思い出そうとしたが、そのうち面
倒になり、考えるのを止めた。ただ、その甘い香りを胸いっぱいに満たした。
「…ん……、ふ……、はぁ……」
優しい愛撫にいつしかアキラの声はあえかなものに変わり、時に甘く響いた。
動きを制限するようにアキラの腰に体重を落としていた。アキラはもどかしいように腰を
うねらせ、その動きは社から庇うように腕に抱くヒカルの喘ぎを誘うことになった。
アキラの背中を隈なく統べた指は後孔に辿りついた。アキラの体にピクリと緊張が走った。
だが、その後は体を固くすることもなく、元のようにすべてを社に委ねていた。次に社が
することを受け入れているのを示すかのように。
コイツは進藤に惚れてる。でも、相手は進藤だけじゃない。もっと他の誰かに抱かれてい
たことがある。社は密かに確信した。


(13)
ボンヤリとした頭でアキラは次にくるものを予期していた。
これから自分はこの男を受け入れるのだろうか。よく知らないこの男を。なぜこの男が自
分を抱くのだろう。とまどいがあった。だが、この腕の中のぬくもりを守るためなら、自
分はどんなことでも受け入れられる。その思いだけは変わらなかった。社が背後から与え
た優しい愛撫は、アキラの中に緩やかなうねりを起こし、過去の記憶を少しずつ呼び覚ま
していく。そして、その感覚はいつしかに過去と現在をないまぜにしていった。
しかし、社の指は狭門にわずかに触れただけで、太腿へと遠ざかっていった。外側から内
側へくるくると輪を描くようにその指が下りてくると、アキラの中でその刺激がさらに増
幅され、再びうねりとなって押し寄せる。
「…んふぅ……」
知らずに吐息が洩れていた。
急に、背中が軽くなった。社の立ち上がる気配がした。
どうしたのだろうと、アキラはゆっくりと首を横に曲げた。
「エエ気分やろ。オレもエエ気持ちにさせてもらおか」
言うと、社は膝立ちでアキラの前方にやってきた。
なにかと考える暇もなく、社はアキラの顎をつかんだ。怒張したペニスが目前にあった。
すでに先端は先走りの露にしとどに濡れ、かすかに光っている。
「こういうことも慣れてるんやろ」
顔を背けようとした。だが、力強くつかまれた顎は動かすことができない。ニラむように
顔を上げた。視線を合わせた社は薄い笑みをたたえたまま、その視線をゆっくりと右にズ
ラした。その視線の先には……。視線を落とすと、アキラは目の前のペニスに唇をあてた。


(14)
ニガい味が口に広がった。アキラはかすかに眉をひそめた。進藤のものならいくら舐めて
もそんな風には感じないのに。アキラは目を閉じ、一つ息をついて、今自分が触れている
ものがヒカルのものだと思うようにした。
改めて舌をぬめった鈴口にあて、チロチロとその雫を舐めとった。雁の部分をクルリと一
周すると、棹に舌を這わした。上に向いた部分をていねいに舐めていく。ピチャピチャと
その音が響いた。音をたてないようにと思うのに、思い通りにはいかない。この音はヒカ
ルの耳にも届いているだろう。身をすくめるような思いが頭をよぎったが、余計なことは
考えないよう、目の前の作業に意識を集中した。根元に達する頃には先端からはまたポタ
ポタと雫がこぼれ落ちていた。垂れてくるその露をからめ取るように、アキラは今度は先
端に向かって裏筋を一心に舐め上げていく。その間に社のペニスは一段と張り詰めていっ
た。
先端に戻ると、アキラは社のペニスを咥え、奥まで吸いたてようとした。だが、ヒカルよ
りも、アキラよりも長いそれは、アキラの口内に収まるには長すぎた。ウグッと嘔吐の反
射がきて、アキラはそれを吐き出し、肩を振るわせ、咳きこんだ。やがて、咳が収まると、
そうすることが当然のように、アキラは再び社のペニスを口に含んだ。今度はゆっくりと、
少しずつ。
温かく湿ったアキラの口中に包まれて、社は一気に理性をなくした。全身の血は一ヶ所に
集まり、猛っていた。
セックスの経験は少なくはなかった。そのためか、年の割に結論にはやることはなかった。
だが、アキラに口中で熱く滾る自身に舌をあてられ、優しく舐められるのを感じると、そ
れだけで腰がガクガクと震えた。アイツがオレを咥えている!もはや昂ぶりは抑えられな
かった。その時、しゃぶるように柔らかく口中で転がしていたアキラが、急に強く社を吸
いたてた。
社はアキラの黒髪をつかむと、狂ったように一気に抽挿を繰り返した。社の瞼の裏に熱く
白い光が走った。
アキラの唇の端から受け止めきれなかった精が白く零れた。
ヒカルがイヤイヤをするように首を横に振った。目尻から一筋の涙がこぼれた。


(15)
欲望を吐き出して、社はハァハァと肩で息をついていた。
「うまいモンや…。誰のお仕込みやろな…」
耳元でささやくと、再びアキラの上に倒れた。体が熱かった。ぐっしょりと汗に濡れてい
た。社の心臓はドクドクと早鐘のように脈打っているのが、体を接するアキラにも伝わっ
てきた。
アキラはヒカルの涙に気づき、唇で拭ってやりたかった。だが、自分の生臭い唇が憚られ
て、手を伸ばして目尻を拭うと、乱れた明るい前髪を撫でた。愛しているのはキミだけだ。
泣かないでと伝えたくて。
社は興奮が収まらぬうちに再びアキラの上で動き出した。先ほどとは打って変わって荒く、
激しく、アキラの体を揉みしだいた。驚く間もなく、いきなり熱く湿ったものがアキラの
狭門に突き立てられた。社の舌だった。唾液をたっぷりと含んだその舌は、なんの準備も
施されていないその場所に不遠慮に押し入った。その存在を主張するように動き回り、狭
門を押し広げようとした。
「あっ…、いやっ……」
突然の蹂躙に、思わずアキラは叫んだ。
その舌を振り払おうとするかのように、無意識の内にアキラは腰を振った。だが、ヒカル
とつながったままの上、脚に社に乗っかられた状態で腰はほとんど浮き上がりはしなかっ
た。
下肢を押し広げるように間に入り込んだ社は、左腕をアキラの腰に伸ばしてしっかりつか
まえると、右手の人差指を口に含みたっぷりと唾液をつけ、狭門に突き立てた。つぷりと
第一関節まで押し込むと、ねじるように回しながら徐々にその指をアキラの中に沈めてい
った。
「…やっ……」
いきなり始まったその行為は、アキラを動揺させていた。一度は受け入れるつもりでいた
はずなのに、その荒々しい行為に恐怖すら感じた。先ほどまで背後で優しく愛撫していた
男とは別人のような気がした。



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