クローバー公園(仮) 11 - 15


(11)
別に眠くもなんともないんだけどなぁ。
そう思いながらも、今のアキラに逆らうと面倒そうだったので
ヒカルは大人しくアキラの言葉に従っておいた。
蒸した空気のせいか、少し低めの温度に設定したシャワーの飛沫が心地よくて
深呼吸を何度も繰り返した。
風呂から上がると、二人分の布団が用意されていたが、
アキラはその上で――しかも掛け布団の上で――眠っていた。
「おい、ちゃんと布団かぶんないと…」
風邪引くぞ、と言いかけてやめ、アキラの傍に屈みこんだ。
さっき見たアレは何だったんだろう?オレ寝ぼけてたのかな……
もう一度確かめるべく、アキラの前髪を掌で捲ろうとしたところで
アキラは不意にぱっちりと目を覚ました。
「ちゃんとして寝ないと、風邪引くぞ」
さっきの言葉の続きを紡いでお茶を濁す。
あぁ、ごめん、とアキラは身体を起こし、のろのろと布団に潜り込みながら
ぼんやりした頭で、聞きたい事があるのを思い出していた。


(12)
「進藤、さっきの話だけど、外泊禁止になるほど遊んで歩いてたのか?」
しかもココに来ていない間に、と心の中で付け足す。
「あぁ、最近、和谷んち、よく行ってたからなぁ」

―――和谷。
ヒカルを可愛がる一方で、自分には敵意を隠さない和谷が
アキラは実は少し苦手だ。その和谷の部屋に通った結果がこれでは
納得がいく筈もない。アキラは無意識のうちに眉を顰めていた。
「何してるんだ?和谷んちで」
アキラの表情が険しくなっている。和谷の部屋に泊まっているのが
そんなに気に入らないんだろうか?誘わなかったから怒ってるのかな?
「何って、前にも言わなかったっけ?和谷んとこは毎週末に研究会したり
リーグ戦やったりしてるよ。オマエも来る?」
「いや、いい。研究会とかリーグ戦?ぐらいでいちいち泊まるのか?」
「うん、なんか和谷んちって皆集まるから面白いし、一人暮らしだから
遠慮いらないし、一度行くと帰るの面倒くさくなっちゃうんだよな」
「それで?何してる?」
「だからぁ、研究会とかしてるって言ったじゃん」
「それだけ?他には?」


(13)
アキラの詰問が続く。なんで今日は下らない事にこんなしつこいんだ?
「んまぁ、メシ食って、だべって、寝てー、」
「他には?」
「………オマエ、何が訊きたいんだよ?どういう答えが欲しいワケ?」
しまった。少し深追いし過ぎたか。
「だっておかしいだろ?家にだってここ最近全然来てないのに、
和谷の所には行き過ぎて怒られるぐらい行ってるなんて…」
「別にオレが何してたっていーじゃん!オマエの考え方の方がおかしい!」
ヒカルは布団から飛び出すようにして身体を起こし、アキラを睨みつけた。
アキラも合わせて起きだし、にらみ返した。
確かにヒカルが言う通り、自分の言っていることはおかしいと自分でも思う。
でもそれを認めたら、ヒカルが和谷の元へ行ってしまいそうな気がした。
絶対それはイヤだ。ヒカルには自分だけのものであっていて欲しい。
ヒカルを手に入れたい。誰のものでもない、自分だけのものに。
ヒカルの中で、絶対の存在でありたい。
咄嗟に、ヒカルに飛びかかるようにして荒々しく唇を重ねた。

何が起きたのか分からないが、あり得ない状況になっている。
あまりの出来事にヒカルがあっけにとられている間に
アキラに押し倒されて、身動きすら取れなくなってしまった。


(14)
アキラは思いのほかバカ力を発揮して、ヒカルをがっちりと押さえ込むと
唇を貪り、舌を舐り、吸い、口蓋を犯した。
コイツなんてバカ力なんだろ。
大体、具合悪かったんじゃなかったか?……もしかして、仮病?
それに塔矢って、こんなキャラクターだったっけ?
とにかく、こんなことあり得ないよ!?
ヒカルはアキラの下で、しゃにむに暴れもがいた。
捕まれた手首に食い込むアキラの指が痛い。

と、不意にアキラが身体を離した。
「オマエ、何考えてんだよっ!痛てーし、何だよ」
肩で息をしながらヒカルは両手首を代わる代わるにさすった。
アキラはヒカルを見ようとせずに、自分の布団に潜るとヒカルに背を向けた。
「ごめん…。ボク、休ませてもらうよ」
「ったく…」
口をとがらせたヒカルも、アキラに背を向けて布団をかぶった。
アキラの我儘には本当につきあいきれない。
いや、でも、待てよ?前もこんなことあったような気がする。
そうだ、あの時は、なんともないような素振りだったから
気にも留めずに放っておいたら、結果、ひどい目にあった。


(15)
結局ヒカルは、口をとがらせたままアキラの布団に身体を移した。
後ろから抱き締めてやると、アキラがぴくりと身じろいだ。
「塔矢ぁ、どうしちゃったんだよ、もぉ…」
前に回した手でアキラの顔をそっと撫でると、アキラは嫌がらなかったから
そのままやわやわと続けた。これで、少しは落ち着くだろう。
あーあ、オレなんでいっつもコイツの機嫌ばっか取ってんだろ。
今日なんか、公園でもそうだったし、今だって、近い未来にあるかもしれない
小さな報復を怖れて、コイツの機嫌を気にしている。
あーやだやだ。オレって小っちゃいなー。

と、アキラの舌と遊ばせていた指に衝撃があり、思わず手を引いた。
「…ぃぃ゛い゛っっでーっ゛! なっ、何すんだよっ!」
一瞬の空白の後に、咬まれたのだと認識した。
「進藤は、こういうこと、考えたことなかった?」
「はあぁ?」
「ずいぶん無防備だったみたいだけど。考えたことなかった?」
抑揚のない声が冷たく響く。
「ね、ねーよ!大体、お前だって、考えたことあるのかよ?」
ヒカルが、いつも口に含むアキラの中心を握りながら聞き返すと
アキラはしばらく考えて、そういえば、ないかな、と呟いた。
「まぁったくっ、それが普通じゃん!オマエ何考えてんだよ?
……とにかくオレ、塔矢なんか、もう絶対!知らないからなっ!」



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