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(11)
耳から首筋に沿って唇が滑る。
熱い舌が残す濡れた冷たい感触に、僕は身体を捩っていた。
唇葉ほどなく胸に辿りつき、左の乳首を啄ばんだ。
舌で転がされたとき、僕は全身を震わせていた。
「感じる?」
進藤の無神経な問いを、僕は無視することにした。
答えなんていらないのだ。無視する僕をさらに無視して、進藤の唇は悪戯を続ける。熱い舌は左右の乳首を交互に舐め上げると、刺激に固く立ちあがったそれを今度は舌先で押しつぶす。
執拗に胸を舐められて、きつく吸われる。
ぞくぞくとした感触が、腰の辺りにわだかまる。
そのうち、全身の血が下肢の中心に集まって行く。
「…くっ……」
無意識のうちに唇を噛み締めていたようで、進藤がそっと口付けてきた。
「そんなに噛んだら唇が切れるよ」
柔らかく笑いながら進藤が僕の目の前に指を持ってくる。その指で、僕の唇を軽く撫でる。
「噛むならこれ噛んで」
どうして僕が、同じ碁打ちの指を噛めるだろう。
抗議のために開いた唇に、するりと進藤の指が忍び込んできた。
僕は不躾な侵入物に、そっと舌を絡めていた。
噛むなんてできるはずがない。それならと始めた行為だったけれど、僕はすぐそれに夢中になった。
灯りのない室内に、ぴちゃりぴちゃりと猫がミルクを飲むような音が響く。
その音がまた、僕を煽っていく。
進藤が、僕の耳元で、くすくすと笑った。
「くすぐったい・……、それにいやらしい………」
そんな言葉を僕の耳に残して、進藤は僕の視界から消えていった。
臍の辺りに触れた柔らかい感触が、進藤の髪だと気づいたとき、僕の生暖かいものにすっぽりと覆われていた。
いつのまに、足を大きく開かれていたのだろう。
進藤は片方の手を僕の唇に与え、もう片方の手で、僕の陰嚢をやわやわと揉んでいた。
それまでの行為で半ば屹立していたものが、直接的な刺激に素直に反応する。


(12)
進藤の口内で、固く勃起する僕の性器。
進藤が、雁に舌を這わせた。
僕の腰が、その甘い刺激に大きく跳ねた。
僕は思わず、歯を食い縛っていた。とんでもないところで、進藤が(イテッ)とうめく。
僕は慌てて力を抜くと、改めて進藤の指に意識を集めた。
進藤の自由なほうの指が、僕の下肢をまさぐる。
内股を撫でさすったかと思うと、臍の窪みに指を突っ込み、次には腰骨を指先で辿る。
その様々な刺激に僕の体は、正直な反応を返していた。
自分で弄ることすら稀なのに、いきなりのオーラルセックスは、僕を困惑の淵に突き落とす。
進藤が、大きく顔を上下する。それが僕にくれるたまらない快感。
近づいてくる絶頂に、僕は泣きたくなってくる。
このままでは、進藤の口に出してしまう。
「し……進……しんどっ……、で……る。離し・………は……」
進藤の指のせいでうまく喋れない。
そこで、気がつく。
進藤の頭の動きと、指の動きがシンクロしていることに。
自分がなにをやっているか、僕はようやく気がついた。
かっと全身に羞恥が走った。それが静まると、次に襲うのは、初めて感じる劣情。
僕も進藤を愛撫しているという事実。
咥えているものは指だけど、指じゃない。進藤がいやらしいといった意味が今ならわかる。
もう、なにも考えられない。
いい。気持ちがいい。行為に夢中になる。
固く目を瞑り、進藤の指を唇で締め上げる。と、同じに僕の脊髄に甘い電流が走った。
堪えに堪えていたものが、一気に迸る。
進藤の喉奥で、僕は欲望を解き放つ。
そのあまりの快楽に、僕は思わず声をあげていた。
「ああっ………!」
快感に、僕の全身が小刻みに震えた。
自分でする時とはまったく違う、信じられない快感。
僕はすべての思考を手放した。


(13)
まるで夏の海に漂っているような、心地良さ。
僕はふいごのように荒い呼吸を繰り返し、余韻に浸る。
いつのまにか、進藤の指は僕の唇から離れていた。
はあはあと繰り返す荒い呼吸の中に、水音が混じっていることに気づいたのは、しばらく経ってからだ。
耳に届く、濡れた音に、なんだろうと心の中で首を傾げたとき、最初の圧迫感に僕は四肢を強張らせた。
くちゅ……くちゅ…………ちゅ…………
進藤の指が、僕を穿っている。
僕は肘をつき上半身を起こした。しかし、進藤の手元を覗くことはできなかった。
彼がいまだに僕を咥えていたからだ。
萎えていたものが、進藤の舌の上で、また形を変えていく。
「しんど………」
答える代わりに、進藤は強く吸い上げ、差し込んだ指をぐるりと回した。
「あうっ………」
快感と圧迫感が同時に襲う。
僕はシーツを握り締め、びくびくと跳ねる体に我を忘れた。
進藤の手が動く度に、静かな室内にくちゅっという音が響く。
「感じてるよね?」
僕の性器から口を外して、進藤が尋ねる。答えるまでもない。
たったいま吐き出したはずなのに、勃ちあがっているんだ。誤魔化しようがない。
「ここからは、俺の番……」
進藤はそう云いながら、僕の後ろに差し込む指を増やした。
二本目も難なく飲みこまれていく。
圧迫感は増したけど、嫌悪感はなかった。
濡れた指が、ゆっくりと推しこまれ、ゆっくりと引き戻される。
「ん……、ふっ…………」
根元まで飲みこまされた指が、またぐるりと動いた。僕の腰は、思わず上へ逃げを打った。
が、進藤は腰を押さえつけて僕を逃がそうとしない。
「身体の力を抜いて……」
そう囁く進藤の息が乱れている。
彼がこの行為に気を昂ぶらせているのが感じられて、僕はなんだか嬉しかった。


(14)
「塔矢のなか、熱いね……」
進藤の熱に浮かされたような声が、そんなことを囁く。
僕は進藤の愛撫に身も心も溶けていく。
ゆっくりとした抜き差しがつづくなか、僕の正直な性器は、快感に打ち震え、熱い雫を滴らせていた。
進藤が指を増やした。
「ひっ!」
一瞬のうちに、快感は痛みに取って代わる。
たった一本指が増えただけだ。それなのに、甘い陶酔が込み上げる吐き気に代わってしまった。
「進藤!」
情けないことに、僕はいまにも泣き出しそうな声で、彼の名前を呼んでいた。
進藤が上目遣いに僕を見上げる。
金髪の狭間から、あの僕を魅了してやまない瞳が覗く。
「ごめん」
彼は溜息混じりに呟いた。
「ここでやめれば、おまえを苦しめることもないのにな……」
進藤は、すまなそうにそう言うと、萎えかけていた僕の性器をまた口に含んだ。
舌を強引に絡め、きつく吸われる。
僕の感覚がバラバラになる。
温かい粘膜に包まれる心地良さと、肛門に感じる違和感。
さっき確かに感じた痛みは、もう見当たらない。
だが、快と不快の境界線の上で、僕の五感は頼りなく揺れていた。
そんな自分が不甲斐なく思えて、じりじりと胸を焦がしていたとき、それは訪れた。
進藤の指が、肉壁の一点を擦った。
「ふあぁっ……!!」
揺れていた五感が、快の領域に転がり落ちた。
進藤の口内で、僕はたちまち力を取り戻す。


(15)
「うあっ…あぁっ……!!」
僕は、続けざまに叫んでいた。両手で、口を抑えても、進藤が同じ処を擦るたびに、声を堪えることができない。
「ここなんだ」
進藤はそうひとり語ちると、さらにそこを責めたてる。
限界は目の前だった。
「もう、俺のほうが…ヤバイよ……」
進藤は指を抜き、僕の体に乗り上げてくると、耳元でそういった。
「ごめんな」
続けてそう言うと、僕の目尻に唇を落とす。舌で拭われて、初めて自分が涙を零していることに気がついた。
「挿れるよ」
その言葉と一緒に、進藤は僕の膝裏に腕を入れ、胸に付くほど押しつけた。
一瞬、息が止まった。
「塔矢、好きだ……」
その一言を合図に、進藤の固く張り詰めたものが、散々指でいじられた場所にあてがわれた。
目を瞑りたくなかった。
進藤は、僕の上で、固く瞼を閉じていた。
そして、歯を食い縛り、一気に僕の中に入ってきた。
「くっ…………!!!」
身を裂くような痛みより、焼き尽くす灼熱に、僕は我を忘れた。
あげたはずの悲鳴は、声となって僕の耳に届く事はなかった。
進藤は、ノックをするように小刻みに腰を打ちつけながら、僕の最奥へと分け入ってくる。
ぽたりと、僕の胸に進藤の汗が落ちた。
僕は、汗でぬれたうでを、進藤の首に巻きつけた。
「ふっ、ふっ、ふっ……」と、進藤が短く息を吐く。
彼の肩の向こうで僕のつま先が、頼りなく揺れていた。
「きつっ」と進藤がうめく。僕は瞳を見開いて、その表情の一つ一つを無心に追う。
進藤の早鐘のような鼓動を、僕は僕の胸で聞いた。
濡れた肌と肌が、ぴたりと合わさっていた。



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