紙一重 11 - 15
(11)
「塔矢!?どうしたんや?何かあったんか?なんで泣くんや?苦しいってどういう事や?
誰か付き合うとるヤツがおるんか?」
「・・・・・・・」
「やっぱりそうか・・・・・相手は・・・・・進藤か?」
「違う!!進藤とはそういう関係では無い。そんなんじゃ無い!!」
「じゃあ、相手は誰や?お前を抱いとる相手は誰や?」
「もうとっくに切れているしキミに関係ない」
「なら、今付き合うとる人間はおらんのやな?」
「いない」
「塔矢・・・・・・俺に少しでもチャンスはあるんか?」
「わからない、そんな事わからない。・・・・・・・・キミは僕にどうして欲しいんだ?」
そう言ってアキラは真っ直ぐに社を見詰めた。
アキラの瞳にはまだ涙が残っているものの、問いかけるその瞳は本来の凛とした眼差しに
戻っており、目尻に出来た涙の一筋とのアンバランスが社の目を惹き付けた。
社はアキラのその美しさと、自分と向き合おうとしているアキラの態度に改めて心臓が
高鳴ってくる。
───ここで怯んだらあかん!口説くんや!気持ちごと自分の物にするんや!
社はアキラの目尻の涙を手の甲で軽く拭き取ると、アキラと正面から向き合うために
抑えていた手と体を離して起き上がった。
もしアキラに逃げられたら諦めるつもりだったし、無理にアキラを抱くつもりも無かった。
アキラも起き上がり二人並んでベッドに腰掛ける。アキラの方に体を向けた社は必死だった。
「俺は塔矢の事が好きなんや!ずっと好きやった!・・・どうして欲しいんや言われても困る
けど・・・時々会って碁を打ってもらえへんやろか?」
「それだけ?」
そう言ってアキラは皮肉な笑いを浮かべた。
「・・・そらお前を抱き締めたいとも思うし、それ以上の事もしたいと思うのも確かや」
「ふっ、結局セックスしたいって事じゃないか」
(12)
「違う!お前は人を好きになった事はないんか?好きになった相手に自分を好きになって
もらいたくないんか?好きになったらすぐ無理やりにでもセックスするんか?」
「・・・・・・・」
「お前が望むならセックスでもなんでもしてもええ。いや、もちろん俺だってしたい・・・。
そやけど、一回だけの関係とか、会ってセックスするだけの関係なんていやや!俺は塔矢の
碁を打つ姿が好きや!お前の強さに惹かれとる!お前を目標に一生懸命勉強しとるんや!
碁を打って欲しいし、話もしたい。お前の笑顔を見たいし、お前の話も聞きたい。俺の事も
理解して欲しいし、お前の事も全部知りたい!・・・・・・・その、要するにやな!時々電話で
話したり、会って碁を打ったり、出来れば、その・・・抱き合いたいんや!」
社は思いの丈をぶちまけた。
アキラは社を無表情で見詰めながら少し考えていたが、社の真摯な態度に逃げるわけには
いかず、視線を落として静かな口調で正直に話し出す。
「僕には好きな人が居る。だが相手は知らないし、打ち明けられる相手ではない。確かに
好きな人の笑顔が見たいし話もしたいし全部知りたいけど、無理やり犯そうとは思わない
よね。・・・・キミがそんな風にボクの事を想っていてくれるなら、その気持ちに応えられそう
には無いけど、・・・・だけど、キミの事を嫌いなわけでもないから、それを分かってくれるなら、
時々会って碁を打って、話して、抱き合う関係を持つ事はできるかも・・・・・いや、それは
あまりにも勝手だね」
「好きな人って誰や?」
「それは言えない」
アキラはそうきっぱり告げると、僅かに微笑んで社を見ながら、
「・・・・ボクはもう帰るよ」
と言って動きかけた。
───どうすればええんや?他に好きなヤツがおるの承知で付き合えるわけない。そやけど、
このままコイツを諦められるんか?出来へん!!そんなんは絶対に無理や!!
「待ってくれ!塔矢。お前が誰を好きかいうのは、めちゃくちゃ気になるけど、敢えて
聞かへん。時々会って碁を打って、話して、抱き合う関係の中で、ちゃんと俺と向きおうて
くれるならそれでかまへん」
(13)
「・・・・・いや、それは出来ない。キミの気持ちを利用するわけにはいかない」
───いかん!逃げられてしまう!
「なんでやねん!分かってくれるなら出来る言うたやないか?お前の気持ちが自然に俺の
方に向いて来るのを時間をかけて待つし、関係を解消したい時はちゃんとそう言うて
くれれば恨んだりせーへんから。それでもアカンか?」
アキラは迷いのある目で社を見たが、社の情熱に突き動かされるように口を開いた。
「・・・・・キミが本当にそれで良いなら・・」
「俺はそれでかまへん!」
───ありゃ?俺の全面降伏やないか!ホレた弱みやな・・・しゃーないか。
社はアキラの意外な心の闇を見て驚いたが、その事よりもアキラが自分の申し出を受け入れて
くれた事が嬉しくて気持ちが昂ぶっており、アキラの憂いを帯びた美しさにさらに強く惹き
付けられ、改めてアキラを抱き締めて素肌に触れたかった。
だが実は男相手は初めてだった事もあり、アキラを満足させられるかどうか不安で少し弱気に
なっていた。
黙ってアキラを眩しそうに見詰める社の様子に、その事を敏感に察したアキラはポケットから
取り出した物をサイドボードに置いて、
「用意していないだろ?これを使って欲しい」
と言った。
見るとコンドーム三枚とチューブのオロナイン軟膏が置かれていた。
───?へ?男同士でもこんなもん使うんか?しかも三枚?三回はしろっちゅー事かいな!?
オロナインはなんに使うんや???コイツはこれを用意して来てたんか?!
口を突き出し、目を丸くしてそれらを眺めている社にアキラは笑いながら色々と説明した。
男同士でもお互いのためにコンドームは着用した方が良い事、潤滑剤が無いと絶対に無理な事、
急で用意できなかったのでオロナインを持って来た事等を淡々と話した。
話終わると、アキラは黙ってセーターとアンダーシャツを脱いで、社をじっと見詰めて来た。
その黒く輝く妖しい瞳は、戸惑っていた社に止めを刺し、飽和状態だった欲望の塊を勢い
良く解放した。
(14)
社は自分の服を荒々しく脱ぎ捨てると、アキラを押し倒しながらズボンと下着を一緒に
取り去った。
ベッドの中心に体を動かして全身を密着させてアキラの唇を塞ぎ、激しく口付けながら
アキラの細くて熱い身体を撫で摩る。首筋、肩、腕、胸、脇腹、腰、背中・・・・何処も
きめ細かい絹のような肌で、社がくすぐるように手を這わせると、アキラの身体は悦びに
震えて声にならない呻き声を社の口の中に漏らした。
その感じやすい身体に社は驚きを隠せず、さらに悦ぶ場所を探して身体中を撫で回した。
密着した二人のペニスはすでに固く張り詰めており、お互いの先走りで下腹部を濡らし、
ヌルヌルと擦れ合う感触がさらにペニスを刺激した。
社は唇を離すと、手でなぞったアキラの身体を今度は舌でなぞり始めた。耳、首筋、肩、
鎖骨、腕・・・・アキラは堪らず声を出す。それはさっき社が項に口付けた時と同じ様に、
体の奥底から自然に搾り出される快楽の淫声で、社を耳から狂わせるのに十分だった。
「あぁっ・・・・・んっ、あっ・・・・」
「塔矢・・・・塔矢・・・・好きや、好きや・・・あぁ、綺麗や、何もかも綺麗や」
社は口付けながら感嘆の囁きを繰り返す。
アキラの胸に遠慮がちに輝く突起を一瞬眺めると、勢い良く唇に含んで吸い上げた。
「んんっ、あぁぁぁ!」
アキラの口から今まで以上の甘い呻き声が上がる。
その声に社はさらに煽られて左右の突起を交互に音を出して嬲り続けた。
十分アキラの息遣いが激しくなったのを感じた社が唇を胸から鳩尾、臍、脇腹へと移動
させると、アキラのペニスが期待にヒクヒクと震えているのがわかり、社は思い切って
それを咥え込んだ。
「あっ、あああぁぁぁぁっ!!!」
アキラは腰を捻るように浮き上がらせて声を上げる。
社は軽くペニスをしゃぶると、体を起こしてアキラの両足の間に移動し、両膝を掴むと、
力を入れて持ち上げながら両足を大きく開いた。
社がアキラの秘部を含めた全身を目を凝らして眺めまわすと、アキラは顔を横に向けて
その視線に息を荒げながら耐えていた。しかし、こうした視姦行為にアキラは馴らされて
いたので、むしろその行為で更にアキラの快感は高められていた。
(15)
アキラの全身は均整が取れていて美しく、白いシーツに乱れた髪が放射線状に散らばって
社を見惚れさせた。
熱を帯びて赤みがかった全身は更なる快感を期待して微かに震えており、胸の二つの蕾は
薔薇色に濡れて存在を主張していた。
社はアキラがまだ身に付けていた靴下を左足だけ脱がすと、足の裏に口付けて、足の甲、
かかと、足首、ふくらはぎ、太腿へと唇を這わせる。社の唇が吸い付くように体を這うと
アキラの口から気持ち良さそうな甘い声が漏れる
唇を太腿からさらに会陰や袋に移動させて吸い付くと、アキラの息遣いがさらに激しくなり、
社が秘門をこじ開けるように両手で押し開いて長い舌で舐め回すと、堪らずアキラから
搾り出すような嬌声が発せられた。
「ああっっ!!んっっ!!うぅぅっ・・・・・・!!」
それはアキラが待ち望んでいた刺激であり、深い快感を得るための序章でもあった。
アキラは早く太い火箸を打ち込んで欲しかったが、社の気持ちの籠った愛撫に酔わされても
いた。
ただ一方的に与えられる興奮を高めるためだけの愛撫ではなく、一緒に快楽の階段を
上っていくような社の愛撫はアキラにとって新鮮な快感であり、身体だけではなく気持ちが
酔わされて溶かされていくのを感じていた。
社は女も男も無く、ただ愛するものを慈しむ気持ちが一杯で、今までの経験を活かして
お互いの快感を高める事で必死だった。
アキラの身体は想像以上に美しく、感度は今まで経験した3人の女性の誰よりも良くて社を
驚かせていた。
アキラを愛撫してその反応に酔いしれながら、これ程までにアキラを開発した人間に対する
嫉妬心が湧き上がり、その人間よりもアキラを善がらせる事に闘志を燃やし始めていた。
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