少年王アキラ 11 - 15


(11)
少年王アキラが空に向かって、ピシピシと鞭を振り回していた頃、
イゴレンジャー本部では―――

「うぅ…!」
「どうしたレッド?」
突然、蹲ったレッドに仲間達が駆け寄る。
「な…なんか…急に悪寒が……」
レッドの顔色は真っ青だった。
「風邪か?なら、オレがあっためて…」
グリーンがそう言ってレッドに抱きついた。が、すぐにブルーに剥がされた。
「どさくさに紛れるなよ!」
イエローがグリーンの頭を叩いた。
険悪なムードが漂い始めた。
戦いの火蓋は切られた。
そうして、レッドを巡って三つ巴の醜い争いが始まった。
「く…ここに可憐な乙女がいるってのに、この三バカトリオは……」
ピンクのストレスは、たまる一方であった。


(12)
アキラ王は、結束の堅いイゴレンジャーから如何にしてレッドを奪うかを模索していた。
遠い空の向こうで、彼らが醜い仲間割れをしているなどと、露ほども知らずに…。
「いや、まずは万馬券を当てることだ…レッドのことはそれからゆっくり考えよう…」
アキラ王は首を振った。同時に二つを手に入れようとすれば、ろくなことにはならない。
確実に一つずつ手に入れるのだ。万馬券とレッド、両方を手に入れるにはそれが賢いやり方だ。
アキラ王は堅実な性格だった。
「必ずレッドを我が手に…!」

アキラ王が城の前庭に出ると、飛行船がもう既に待機していた。
アキラ王の乗船をいまかいまかと待っている。
「王よ…いつでも出発出来ます。」
オガタンが、アキラ王に声を掛けた。
「ハマグリゴイシは?」
ハマグリゴイシとは(つい先ほど名前が判明したばかりの)アキラ王の愛馬である。
「じきにこちらの方へ…」
可憐な執事座間が恭しく頭を下げた。座間が体を動かす度、スズランの香りが
宙を漂った。

全ての準備が整い、少年王は満足そうに頷いた。
そして、再び鞭を空で撓らせると、真っ直ぐに天をさす鞭の先を見つめて言った。
「いざ、金沢へ!!」
太陽の光が、アキラ王を神々しく照らした。


(13)
宇宙船『アゲハーマ』はものすごい勢いで時空をワープしまくっていた。
「何をしている! もっと速く飛べないのか!」
ハマグリゴイシの背に跨ったアキラ王は、鞍にその股間を擦り付けながら檄を飛ばした。
「キミがいちいち靴を自分で履いたりしなけりゃ、余裕で間に合ってたと思うが」
オガタンはシガーチョコをばりばりかみ砕きながら呟く。
宇宙船の中は禁煙だった。


(14)
少年王はオガタンの呟きを聞き逃さなかった。
涼しげな声で執事を呼び、抱き抱えられて愛馬ハマグリゴイシから降りた。
子羊の革の柔らかい靴底に『歩くときの音がカコ(゚∀゚)イイ!』というだけの
理由で仕込んだ木が、役目を果たすべく彼が歩くたびコツコツ鳴り響く。
「…オガタン! ボクとレッドの未来は今日にかかっているとボクは思っている。
万全に万全を重ねて何が悪い?」
「万全?」
オガタンは、囁くだけで幾人もの腰をくだけさせた魅惑のバリトンボイスで繰り返す。
「あなたはまだ、恋愛において大事なことを知らないでいる」


(15)
「あなたはあまりにも大事にされすぎていて、夜の褥のことを一つも知らないだろう? 
それであの百戦錬磨といわれるレッドを攫おうなんて…片腹痛いな」
「カタハライタイ?」
アキラ王はオガタン星の言葉をあまり知らなかった。首を傾げつつも、言われてた意味は
何となく解る。少年王は白磁の頬をバラ色に染め、オガタンを上目遣いに見あげた。
「じゃあ、どうすればよいのだ?」
「簡単なこと」
オガタンはクククと喉を震わせて笑う。そして懐から怪しげな小瓶を取り出した。
「これが何だかわかるか?」
「オガタンが、『癒し』に使う薬」
そうだと言う風に、オガタンは一つ頷いた。
「そして、恋人たちの夜の営みが83倍は楽しくなる。老若男女問わずな」
「使い方を教えてくれ」
マッハで返答が返ってくる。少年王は期待で瞳をキラキラさせ、ぞうさんをハァハァさせていた。
「……いい子だ」
「オガタン、王子に何を」
座間は少年王がまだ王子のころから使えてきた身だった。オガタンにはかない恋心を抱き
ながらも、本命は少年王父兼虎の穴鑑別所所長の行洋である。その行洋が王子に何の性教育も
施さなかったのだ。なのに、なのに。
執事である座間は頬をほんのりピンク色に染め、叫んだ。
「それを使うんなら私に――!」



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