白と黒の宴2 11 - 15
(11)
料理長のその言葉を聞いて社を見ると、その時は何故か社はアキラから目を反らした。
何かふとアキラは社が抱えている孤独感のようなものを嗅ぎとった。
周囲の大人達に期待され、同じ年代の碁を打つ者達は全てライバルでしかない。
アキラが置かれていた環境も同じだった。自分はそれを淋しいとは思わなかった。
淋しいと思っても仕方なかったからだ。社が何故自分に執着するのかと考えると、
どこか同じ孤独感を持つ者同士という匂いを感じたのかもしれない。
だからと言って、彼が自分にした行為を許すわけにはいかない。
食事を終えて店を出ると裏通りはすでに真っ暗だった。
「もっとエエ場所だったらごっつう繁盛すると思うんやけどな。」
店の看板を見上げて社が誰に言うともなく呟き、アキラに同意を求めるように笑顔で振り返る。
「用が済んだのなら、帰らせてもらうよ。」
アキラの相槌をうつ意志の欠片も無い返答に、社の顔から笑顔が消えた。
そうして明るい通りへと急ごうとした、そのアキラの腕を、社が掴んだ。
「あっ…!!」
アキラが身を固くする。社は強い力でアキラの体を引き寄せるとその場でアキラの唇に
強引に自分の唇を重ね合わせた。
裏通りではあっても人が居ないわけではない。繁華街が目の前と言う事もあって時間的に
目的なく彷徨う輩がそこここにいる。驚いて一瞬立ち止まり、口笛を拭く若者らがいた。
もちろん社の風体にそれ以上にしつこく冷やかそうとする者はいないようであったが。
(12)
アキラの意志を無視した行為は長く激しく続いた。
その最中からアキラの体は恐怖と怒りが入り混じった感情で小刻みに震えた。
「…もう少しつき合うてもらうで。」
ようやく離れた社の唇から漏れたその声も、肩を掴む力も、表情も
先刻までのものとは別人のようだった。
今の社の目はあの時の、事務所の中でアキラを引き倒した時のものだった。
「何度でも言うとくけど、オレから逃げたいなら逃げてええ。そしたらオレは、
…お前の代りに進藤を抱く。それだけや。」
アキラは社を睨み付ける。噛み締めた唇を震わす。そんなアキラを楽しそうに見つめる社の
冷ややかな笑みは、獲物を追い詰め生け捕る目前の舌舐めずりするハンターのものだった。
そこから近い場所にあったホテルにアキラは連れ込まれた。
廊下の突き当たりにレースのカーテンがかかった形だけの受付には人影があったが
社が大人びているとはいえともかく未成年の可能性のある男の二人連れにさして何かを
咎めに来るような気配はない。
社はアキラの肩を抱いたまま適当に部屋の番号を押してエレベーターに乗り、
ランプが示す方向に廊下を歩いて一つの部屋に入る。
こういう類のホテルを何度も利用している様子だった。
ドアを潜る段階でアキラは一度躊躇し抵抗しようとしたが、社に強引に引き込まれる。
部屋に入ると直ぐに社はアキラを壁に押し付け再度唇を重ねて来た。
社の肩からスポーツバッグが滑り、床に落ちた。
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「んっ…ふっ…ん…」
社の荒々しい呼吸と、激しいキスの合間にアキラが空気を求めて喘ぐ吐息が混じり合う。
縦に横に、社は角度を変えてアキラの唇を様々な形で吸う。
何度も重ね合わし、アキラの舌を吸い取り、舐め上げ、自分の舌でアキラの口の中を探る。
そうしてようやく気が済んで落ち着いたかのように顔を離した。
社の両手で頬を包まれ顔を押さえられたアキラは社の手首を掴み、嫌悪感も露に上目遣いに睨み返す。
そんなアキラの表情さえも社は愛しくてたまらないというように上機嫌な様子で、そのアキラの
手を振払うと腕を掴んで浴室に連れて行き、バスタブの底に球体の栓を落として湯をはり始める。
そしてアキラを抱き寄せ額や頬、唇、首筋へキスを重ねながらアキラの服を脱がしにかかった。
脱衣所に戻るのももどかしそうにその場で剥いだものを浴室のドアの外へ放り投げて行く。
そうしながらも社は掴んだアキラの腕を一向に離そうとしなかった。
数分後、入浴剤とジャグジーで泡立てられた浴槽の中に裸の二人は居た。
浴槽の縁に頭を乗せて横たえられたアキラの体に社の大きな体が覆いかぶさり、アキラの唇を貪る。
丸い浅い浴槽は殆ど二人の姿を覆い隠すように白い泡が立ち篭めていた。
二人の肩は、同性のものとは思えない程対照的に片方は白く細く華奢なラインで、片方は
日に焼けた褐色で逞しく筋肉が貼り付いている。
唇を奪う一方で社は褐色の腕でアキラのその白い肩を抱き、もう一方の手で泡の中で
アキラの体のあらゆる部分を撫で回す。
高価な芸術品を愛でるようにじっくりと手のひらでアキラの体のパーツを確かめていく。
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アキラの細い首や腕、指先、そして背中、胸部、太ももへと社の手は動いた。
天井の安っぽいデザインの照明を見つめながら、アキラは早く時間が過ぎて、この男から
解放される事だけを望んでいた。
アキラの両膝を割って社の体が入り込んでいるため下半身で二人の互いのペニスが触れあう。
社のそれは既に収まる場所を求めて固く反り上がってアキラの下腹部を突く。
その気になれば瞬時に彼に征服されてしまう体位になっていた。
それでも何か自制しているのか以前と違ってなかなか社はその行為に出て来なかった。
二人の温度差を縮めようとするかのように、しだいに指先はアキラの体の敏感な部分に
滑り始め、アキラの胸の小さな突起を捕らえてくすぐるような愛撫を施してきた。
「…!」
アキラはすぐに社の手を払い除けた。すると次に社の手が腰の下方に動いて双丘の谷間に入ろうした。
アキラは浴槽に体を強く押し付け侵入を阻んだ。
社はニヤニヤしながらゲームのようにアキラとのそういったささやかな格闘を楽しんでいたが、
やがてその左手をアキラの両足の間に這わすとその奥に突き入れた。
「くっ…」
アキラが手でガードする間もなく社の指は一気にアキラの火口を捕らえ、
その中に強引に潜り込んできた。
ビクンッとアキラの体が震えた。
「あ…!」
アキラは両手で社の左手首を掴んだが、入浴剤を含んだ湯が潤滑油となって社の
中指が既に付け根まで深々と体内に埋められていた。
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「んっ…ん!!」
肩を竦めて身を捩るアキラの体を社は残った右手で動かぬよう強く抱き締める。
そしてアキラの体内で指を動かす。限界まで奥まで入り込み、抜けかかるまで引き抜く。
そうしてまた捻りながら押し込み、ぐりぐりと四方の腸壁を指の腹で摩る。
噛み締めたアキラの唇から吐息が漏れ始める。社は指は2本に増やすとそうして
時間をかけてアキラの内部の手触りを楽しむ。
アキラは唇を結んで無言のままひたすらに社の行為に耐えた。
「…よほどあの進藤ヒカルが大事なんやな…。」
社にそう囁かれ、アキラは一瞬目を見開いたが、直ぐに平静を装って答えた。
「…何か誤解をしているみたいだけど、君が考えているような意味では…ボクは進藤を見ていない。」
社が妙にヒカルにこだわるのが、アキラには不思議だった。
「…へええ。今日の対局の後のあんたの態度を見るとそうは思えんけどな。あいつが
言うた通り、確かに進藤はやっかいな“障壁”や思おたで。」
「…あいつ?」
アキラが怪訝そうな表情で聞き返すが社はそれには答えなかった。
「まあ、ええわ。」
会話の間もアキラの体内の深くで社の指は様々な動きを続けていた。最初こそはやや乱暴だったが
今は柔らかなゆっくりとした動きで、固く閉ざされた貝の口を自ら開かせようとしていた。
そして全体的に刺激を与えるように動いていた指が、ある部分へと次第に目標を定めていく。
「んっ!」
ビクリとアキラの体が震えて反射的に指から逃れようとするが、強い力で押さえ組まれる。
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